2001.03.12 by 野々村牛堂

さあ、さあ、さあ、ご用とお急ぎでない方は、ちょいと御時間を拝借! 見とくれ、読んどくれ!

時は穢土幕府、八代将軍正宗公の頃と言えば、いまから三百年ほど前の話だ。その大穢土八百八町の飲兵衛のあいだで幅を利かせていたのが、有名な岡っ引きの杜伊蔵親分。この親分、別名「銭高伊蔵」という。家業の造り焼酎屋をしながら十手持ち、という二足の草鞋を履いてるお人だ。

なぜ銭高伊蔵と言われるかってぇと、あの銭形平次親分は知ってるよな。銭形の親分ってぇのは、銭を投げて悪党をひっ捕らえる名人芸で、この大穢土を湧かせた有名な十手持ちだ。

ところがこの伊蔵親分、銭形の親分とは正反対に、お大尽や悪徳商人からいっぺえ銭を投げつけられると逆に捕まっちまうってえ、ちと変わった親分なんだ。だから、俺たち庶民の味方じゃぁねぇ、銭高の親分、銭高の伊蔵親分って呼ばれるようになったわけだねぇ。

というわけで、また銭高伊蔵親分の廻りに怪事件が起こった・・・。
(主題歌)
♪稀少だったら 九割掛ける
 掛けて膨らむ ぷれみあむ
 誰が飲んだか 誰が飲んだか 銭高伊蔵
 酎のお穢土は 百鬼夜行
 今日も追っ手の 今日も追っ手の 銭が飛ぶ

◇   ◇   ◇

(子分の大誤郎が伊蔵親分の家に、息せき切って飛び込んでくる)

大誤郎:「親分、てぇへんだ、てぇへんだ!!」
伊蔵親分:「どうしたい、大、騒々しいぜぇ」
大:「何のんびりしてるんですかい。てぇへんなんですよ」
伊蔵:「おめぇのてぇへんは、聞き飽きたよっ」
大:「だから、てぇへんなんだってっ」
伊蔵:「また何かい、うちの前で商人連中が千両箱抱えて投げつけようとしてるってんだろ?・・・困ったもんでぃ。そういやぁ、一昨日は近所の御店の丁稚や手代連中が俺様に寛永通宝を投げつけやがって、カバ野郎どもが。オトトイ来やがれって」

(伊蔵の女房・お錦が横から入って)

お錦:「ほんとだよ、あいつら、なんて胴欲なんだろっ。おまいさんに一文二文投げつけたところで捕まるわけないじゃぁないか。慶長大判ぐらい持って来なきゃねぇ。大穢土一の男前、安売りできゃしないよ」
伊蔵:「こちとら、一枚看板の歌舞伎役者が南蛮渡りの檸檬を入れて飲もうかってぇ
位に男上げてんだ。舐めるんじゃねぇやな。ふん」
お錦:「うちはエレキテル伝声器での抽選販売が建前なんだから、ねぇ」

(大誤郎、ちょっと躊躇して)

大:「いや、実は親分違うんでぇ。・・・表に人っ子ひとり、酒手持って待ってる奴が居ねえんでぇ」
伊蔵:「な、なに? 誰も居ねえってぇのかっ!?」
お錦:「大、嘘をお言いでないよ」
大:「お錦姐さんまで・・・。信じれくれぇ」
伊蔵:「なに言ってんでぃ、ばかやろう」

(と伊蔵、表に出るが、大誤郎の言い分が正しいと解る)

伊蔵:「うむ・・・・・」
大:「ところが親分。さっき川内町を通りかかったら、村雄親分んちの前で凄ぇ人だかりだ。驚いて覗いたら、村雄親分に向けてみんなが銭投げてんだ」
伊蔵:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「親分、お察しいたしやす・・・」
お錦:「おまいさん。あたいたちは、おいてけ堀かい?」
伊蔵:「焼酎屋兼業目明かしの女房が、そんな弱気でどうする!」

(伊蔵、十手を手にして)

伊蔵:「おぅ、大、いくぜ!」
お錦:「おまいさん、ちょっとお待ち」

(SE/火打石の音:カチカチ)

◇   ◇   ◇

(場面変わって、ここは川内町、村雄親分の家の中。親分を前に、悪徳酒屋の誉れ高い筑前屋の主人と番頭が座っている)

村雄親分:「筑前屋さんも、なかなか手強いお方で。あっしもこういうお役目ですんで、あまり派手なこたぁしたくねぇんだが・・・」
筑前屋:「いえいえ。手前どもはしがない商人でして。というわけで、親分、うちの驚愕酒店で独占的に並ばせていただけませんかな。お礼はタンマリとはずませて戴きますが」
村雄:「たしかに筑前屋さんの様な、酒販と料飲を兼ねた御店をないがしろにはできねぇんだ。だから消費者直売はやらねぇ。ただ、あっしもそうそう量を出す余力も無いんでさぁ」
筑前屋:「ま、そうおっしゃらず」

(筑前屋、風呂敷を開け、重箱に入った「切り餅」の山を見せる)

筑前屋:「手前どもの驚愕酒店では、『村雄』の値段は一万二千八百文ですが、それでもお客さまから銭を投げていただける。番頭に任せております飲み屋でもいい値段できーぷしてもらってますよ。今のご時世、まっこと有り難いことで」
村雄:「あっしゃあねぇ、てめぇを貧しい者の味方と思っておりやす。銭積まれりゃぁ、いいってもんじゃぁないんだ。それにうちで造る石高も知れておりやすし」
筑前屋:「なんとか、そこのところをひとつ。村雄の親分、やっぱりこの件、飲んでいただけませんか?」
村雄:「あっしは、飲ませるのが商売・・・。ちと考えさせておくんなせぇ」

筑前屋:「親分さん。おっかさんが重い病の床に伏せってるそうで。阿蘭陀渡りの薬があればと、藪井桂庵先生にお聞きしましたが」
村雄:「う・・・・・・・・・・・」

(筑前屋は番頭にしばらく耳打ちすると)

筑前屋:「親分、またお邪魔しますんで、なにぶんよろしくお願いいたしますよ」
村雄:「ご足労いただいて、たいへん申し訳ねぇ」

(筑前屋が村雄親分の家を後にする)

村雄:「さてと、困ったぜ。桶買いするのは嫌だからなぁ・・・」

◇   ◇   ◇

(村雄親分の家へと急ぐ伊蔵と大誤郎)

大:「痛てぇなぁ、糞ぉ。さっきの浪人、一文銭ぶつけやがって。瘤が出来ちゃったい」
伊蔵:「おい大、元気出せよ。お前ぇに銭ぶつけようってぇんだから、よほど奇特な浪人だぜ。感謝しな」
大:「そりゃないですよぉ」

(通りで、一升瓶を満載した筑前屋の大八車とすれ違う)

伊蔵:「おい、大。あれ見ろ!」
大:「ありゃぁ、筑前屋の大八じゃないっすか」
伊蔵:「それもそうだが、荷だよ。よく見りゃぁ『村雄』の空瓶ばっかり積んでらあ」
大:「親分、空瓶ばっかりってどうして解るんでぇ?」
伊蔵:「なに言ってんでぃ、ばかやろう。あれだけのカサのある荷で軽々と大八が走るってぇのは、中味が空だってぇことよ」
大:「さすが、親分!」
伊蔵:「ったく・・・」

(立ち止まったまま、大八車を見つめる伊蔵)

伊蔵:「こいつぁ、何かあるな・・・・」

(続く)

(この物語はフィクションであり、実在する個人、団体、商品とはまったく関係はありません)

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