ここは武蔵國。
ある宿場のはずれを、ひとりのみすぼらしい男が歩いております。

空んなった『黒伊佐錦』の一升瓶を杖替わりに、
あっちにフラフラ、こっちにヨタヨタ。
朝から飲んでんじゃないかってぇ真っ赤な顔、
牛歩の如く遅々として進まぬ足で、彷徨っている様子。

さて、どこに行くのか、なにが目的なのか、
しがない旅の空・・・。

2001.01.18 by 牛母沢 燗

農民がひく荷車の荷台に乗った牛。真っ赤な顔で気分が悪そうに揺られている。

座頭牛「うっぷ・・・。また飲んでもぉーた(~Q~;)」

宿場町のとある屋敷の前。荷車が止まり、牛降りる。

農民「着きましたよ。ここですよ」
座頭牛「どうもありがとうございました。おおきにでしたm(_ _)m」

牛が暖簾を分けて屋敷の中に入って行こうとすると、後から若い衆が、

三下A「おい、お前、何の用でぇ?(-"-)」
座頭牛
「すみませんが、こちらは寶川の繁蔵親分のお屋敷じゃぁ、ござんせんか?」
三下A「そうだが」
座頭牛
「寶川の親分さんに御挨拶に参りました、焼酎座頭の牛と申します」
三下A「親分は留守だが、もういっときすりゃ戻られるだろ。・・・奧で待ってな(-ー;」

◇   ◇   ◇

三下に連れられて、奧へと案内される牛。奧は大勢の三下たちが寝起きする大部屋。
甲類焼酎飲みながらサイコロ博打で三下たちが嬌声をあげる大部屋のその左に廊下が走り、中庭に面している。
牛、その廊下に座らせられる。

中庭に咲いた花の、甘い匂いが牛の鼻に漂ってくる。

座頭牛「ん〜〜〜〜〜ん。よか香りばい・・・」

牛、ふと鼻を、三下たちが酒をくみ交わす大部屋へと向ける。怪訝な表情。

座頭牛「う。なんにも匂わねぇなぁ。無味無臭ってやつだな・・・(~Q~;)」

それを聞いた三下たち、いきり立って、

三下B「おぅおぅおぅ、なんだとぉ! 無味無臭とは何事だっ!(-"-)」
三下C「臭いが無くて何が悪いってんだ!ざけんじゃねぇやな(-"-)」
三下D「この野郎、言いたいこと、言いやがって!」
座頭牛「ぴゅあ&くりーんってことが言いたかったんで。誉め言葉ですよ」

牛、わざとサイコロ博打に話向きを変えて、

座頭牛「すみませんが、よかったらあっしにも胴を取らせてもらえませんかね」
三下C「お前ぇ、壷振れるのかい?(失笑)、じゃぁ、やってみなっ」
座頭牛「へ、ありがとうございます。あっしも“甲乙博打”が好きでがしてねぇ(*^^*)」

牛、壷を握る。いかにも手元が心もとない。

座頭牛「入ります!」

賽を壷に入れ振りかぶって畳の上に。が、サイコロが壷からこぼれる。目は二三の“甲”

座頭牛「ささ、はってくださいよ! ね!」

三下たちは薄ら笑いを浮かべている。

三下C「甲だ!」
三下B「甲だ!」
三下D「甲だ!」
三下E「甲だ!」
三下F「甲だ!」
三下G「甲だ!」
座頭牛「おろ?“甲”ばかりですかい(-ー; これだからなぁ、関東は。じゃあ、あっしは“乙”に。じゃないと博打になんねぇやな。さ、勝負!」

牛、壷を開ける。

座頭牛「さ、目は・・・・?」
三下G「三二の甲だ!」
三下D「いただき、だな!」
三下たち「はっはっはっは!」

がっぽりと銭を持って行かれる牛、諦めると思いきや、もう一度、

座頭牛「すみませんがね、まだまだコマは持ってますよ! もう一勝負行きましょう」

牛、袂から“切り餅”を出す。それにつられて三下たちの目がギラリと輝く。

三下たち「おお!やろうやろう!」
座頭牛「入ります!」

賽を壷に入れ振りかぶって畳の上に。またもサイコロが壷からこぼれる。目は三四の“甲”

三下G「へへへ。甲だっ!」
三下B「甲だっ!」
三下F「甲にはった!」
三下E「甲だ!」
三下D「甲だ!甲だ!!」
三下C「甲だ!」
座頭牛「また“甲”ばかりですかい(-ー; やんなるねぇ、関東は。じゃあ、あっしは“乙”に・・・・と」

と牛、突然壷からこぼれた賽を取り上げて袂に入れる。あっけにとられる三下たち。

三下たち「おっ・・・(@@;)」
座頭牛「勝負!」

壷を開く牛、賽の目は五一の“乙”

座頭牛「え?・・・・賽の目は?・・・・賽の目はどうなってます?」
三下たち「・・・・・・・・・・(-ー;」
座頭牛「お、乙でございましょう?(ニヤリ)。おお!こりゃ儲かった。あたしのひとり勝ちだね。ありがとうございました」

ニヤニヤした表情で盆に拡がった銭をかき集める牛。むっとした三下たちが詰め寄る、

三下B「おい!こりゃぁ、いかさまじゃねぇか!(-"-)」
三下D「貴様、さま師か!(-"-)」
三下F「俺達をはめやがって!(-"-)」

黙って聞いていた牛、すっくと仁王立ちになって、

座頭牛四の五の言うんじゃねぇや、カバ野郎! だいたい壷からこぼれた賽の目にコマはるトンチキがどこの世界にいるってんで? なにかい、お前らはこぼれた賽の目にはったってのか? だいたい“甲”はともかく、“乙”は一滴たりともこぼすわきゃねえんだ、俺はな!・・・はぁ、こんな三下ばかりじゃぁ、親分の器量も知れたもんだな。あほらしくなった、邪魔したなっ。」

銭を抱えて廊下を玄関に向かって去っていく牛に、怒った三下たち、

三下F「あの野郎、叩っ斬ってやる!!!(-"-)
三下たち「おお!!!!!」

脇差を握った三下たちが、一斉に裏へ先回り。表で待ち伏せしようと追いかける。玄関まで来た時に、

寶川親分「おぅ!お前達、いったいどこへ行こうってんだ?」
三下たち「おっ、親分!m(_ _)m」

と、そこへ暖簾をわけて玄関から牛が出てくる。ばったりと出会って、

寶川「お?もしかしたら牛さんじゃねぇか? おお、やっぱり牛さんだ」
座頭牛「ああ、親分さんですかい。お久しぶりで」
三下たち「・・・(@_@;)」
寶川「お前たち、こちらはな、焼酎座頭の牛さんてぇ、凄腕なお方だ。おう!麦六ぅ、牛さんの草鞋を取ってあげな。茶湯、飯、焼酎の世話はあたりめぇだぜ」

◇   ◇   ◇

牛が寶川一家に草鞋を脱いだその夜、兄弟分「共輪の助五郎」がやって来て宴が始まる。

共輪「な、兄貴ぃ。関八州の本格焼酎のシマだが、うちも入れてくれねぇか?」
寶川「おぅ、どうしたってんでぇ?」
共輪「いぇね、俺も兄貴に習って、薩摩や肥後の親分衆から桶で仕入れて、一儲けをと」
寶川「ははは! 抜かりがねぇなぁ、手前ぇは(爆)」
共輪「木林や阿佐屁、拮抗判もシマ狙ってるって話じゃねぇですか。殴り込みかけられる前に、こっちから仕掛けてやろうと。どうでぇ兄貴、ここはひとつ口利きを頼めねぇか」
寶川「いいぜぇ、俺とお前ぇの仲だ。ま、狙い目とすりゃぁ、日向の親分衆と組むのも手だがなぁ。こっちの手は汚さねぇで、“高付加価値”で堅気の衆に売れるって算段」
共輪「ふふふ・・・(ギラリ)」
寶川「ふふふ・・・(ギラリ)。・・・・そういやぁ、いま焼酎座頭の牛ってのが、居候してる。ま、出入りの時にゃ使えるだろうってタダ酒飲ませてやってるんだが、お!そうだ、余興にちょっと呼んでくるか。・・・麦六っ!、牛を呼んでこい!。それにみんなも呼んでこい!面白いものを見せてやる!」
麦六「へい!」

麦六に呼ばれた牛、座敷に入ってくる。三下たちが回りを囲んでいる。

座頭牛「親分、なんの御用で?」
寶川「牛さん、済まねぇが、例の“居合い飲み”を見せちゃくれねぇか? なぁ、みんな。俺は一度だけ筑前で見たことがあるんだっ。そりゃぁ凄ぇ早技だったぜ!」
一同「ほぉ・・・」
共輪「牛さん、良かったら見せてくれねぇかな」
寶川「ご祝儀と言っちゃぁなんだが、今度売り出そうかってぇ九州渡りの新しい本格焼酎がある。“発売元:寶川”ってヤツよ。見せてくれたら、これを一本やろう」
座頭牛「タダ酒はうれしい話・・・おやすい御用でm(_ _)m」






“試し飲み”に出されたのは常圧『峰の露』。構える牛。座の空気が張りつめる。

シュパッ!
一同「おおお!(@_@;)」
三下G「す、凄ぇっ!!(@_@;)」
三下B「いったい、いつの間に・・・(@_@;)」
三下F「中身が無くなってる!(@_@;)」
三下E「いつ飲んだってんだ?(@_@;)」
共輪「て、てぇしたもんだ!牛さん!」
寶川「さすがだな」
座頭牛「あたしゃ“盗み飲みの牛”って呼ばれてる位でしてね。隠れ酒、盗み酒だけが取り柄のしがない野郎でございます。他人様の酒にまで手ぇ出して、顰蹙買っておりやす」
寶川「いやぁ〜、大した技だ!(・・・これで出入りは勝てる!)

共輪「さっきから気になって気になって、しょうがねぇんだが。それにしても、牛さん。お目の方は達者なようだが、なぜ焼酎座頭と自称してるんでぇ?」
座頭牛「さすが親分さん、いいところにお気づきんなった。あたしゃ目に不自由は無ぇが焼酎には暗い、つまり焼酎の“目利き”じゃねぇってことでして」
共輪「なんだい、ただの飲兵衛かい? はっはっはっは!」
寶川「ま、いいやな。・・・さ、お前達も新しい焼酎飲んでみるか! ま、いっぺぇやってみろ!」
三下たち「ありがてぇm(_ _)m」

◇   ◇   ◇

寶川が新しく売り出すという薩摩芋焼酎を子分たちが試飲し始める。大部屋の時とは打って変わった風情、

三下G「少々サラリした粉体のような苦味があります」
三下B「パッションフルーツのような香りが主体で、あとは若草の香り」
三下F「とても非常に爽やかで、華やかです」
三下E「味わいは、とてもまろやか。バランスがいい」
三下W「紫蘇と山葵を加えるとさらに風味が増して美味しくいただける」
三下S「若干スパイシーさを感じますが、溶け込んでいくので印象はなめらか」
三下B「いや、スパイシーではあるけど、アフターに少々荒い余韻があって魅力的」

三下S「なに言ってんでぇ?アフターはなめらかだって言ってんじゃぁねぇか!(-"-)」
三下B「おう!俺は荒い余韻って思ったんだっ!文句あんのか!(-"-)」
三下S「うるせぇ! 俺がなめらかって言ったら、なめらかなんだ!(-"-)」
三下B「いい気になりやがって!やってやろうじゃぁねぇか!・・・抜けっ!(-"-)
三下S「たた斬ってやる!(-"-)

やおら牛が立ち上がって、

座頭牛ガタガタ言ってんじゃねぇや!おぅ! お、俺たちゃ・なっ。お天道様の下、大衆の表街道を行く渡世なん・だ・ぞっ。いいかぁ、言わば、元は関東の鼻つまみもんだぁ。それが、いまじゃスノッブ御用達。いつか別のものを見つけられりゃぁ、余所に行っちまわれるってぇ運命だっ。ペダンチックな小理屈並べて内輪もめしてる場合じゃぁねぇっ!」

♪およしなぁ〜さいよぉ〜

三下たち「もっ、タダじゃおかねぇ!(-"-)」

牛、あっけなく袋叩きにされて、


おことわり:本稿は目の不自由な方、身障者の方への誹謗中傷を意図して書いたものではありません。猛牛個人が敬愛する映画『座頭市物語』、および俳優・故勝新太郎氏へのオマージュに仮託して、本格焼酎について語るためのものです。この文章についての責任は猛牛個人にあります。
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