2001.06.12

  検非違使に問われたる酔いちくれ筑紫人(ちくしびと)の物語

 さようでございます。あの『野いのししの突進』を飲んだのは、わたしに違いございません。わたしは定期的に開いて居ります単なる飲兵衛の集まりにて、『野いのししの突進』を出したのでございます。買った場所でございますか? それは向日葵の、空の湊(そらのみなと)という所で。はい、もちろん造司指定価格でございました。
 まず香りを嗅ぎましたら、得も言われぬ匂いでございました。ぬぅあんとも例えようのないものだったのでございます。何、どんな味だったか? はい、口に含みましても凄い刺激で、突進と申すよりも暴走という言の葉の方が似合うような、そんな味だったのございます。ぴり、ぴり、ぴりと舌を針で刺すが如く、その味がずっと口中に残るような、飛んでもなくエグイものでございました。

  検非違使に問われたる焼酎収集東人(あずまびと)の物語

 『野いのししの突進』を飲みましたのは、もう幾年も前のことでございます。わたしにとりまして、これを初めて飲みました時、草むらから猪が颯爽と走りぬけるような、言葉では表しようも無い程鮮やかな感銘を受けたのでございます。え?暴走みたいだったと? いえいえ、飛んでもございません。
 とある飲兵衛の会での噂を聞き及んで、驚いたのでございます。もしその話が本当ならと、わたしは大切に収蔵しておりました延暦九年製の同酒を開栓し飲みなおしたのでございますが。は? ここしばらく飲んでいなかったもので、再び味を確かめるためにでございます。
 氷を入れて飲んだのでございますが、しばらくするといい味わいに馴染んで居りました。口に含みますとなんとも甘い余韻を楽しむことが出来たこと、相違ございません。どうしてこうも想いが反するのか、納得できないで居ります。ぜひとも御詮議下さいまし。

  検非違使に問われたる芋党隼人系東人の物語

 先日のことでございましたが、在所の近くにあります酒屋で数人の友と焼酎のことで語り合って居りました。その折に口々に申しましたのが、白本屋さんの商い品の包装ですとか図案化、市場導入法の素晴らしさでございました。皆も全く異論無く納得したのでございます。
 わたし自身の好きな図案でございますか? わたしは『朝目』『娑妻』『円の露』『斎戒の誉』に見られます、なんとも土の香りがいたしますものが好きでございますが。なんと申し上げますか、白本屋さんというものは、焼酎全体を活き活きとさせる点で目を凝らすべきものであると思っておるのでございます。
 ただあえて申し上げますなら、“野いのしし”も、『浜蝉』も、『余録』も、わたしにとりましては馴染まない味と感じるのでございますが、『余録』を殊の外気に入って居ります小生の友とは、毎度戯言のすれ違いでございます。『白檀』でございますか? それは挑戦するごとに“破裂”致しまして、諦めたのでございます。

  検非違使に問われたる米党熊襲系東人の物語

 すこしく異議を申し述べさせていただきたいのでございます。白本屋さんは、熊襲のとある蔵に『白檀』の商い印を侵したと、誠に驚くべき額の贖い金を求めて来たそうでございます。実際には何ら害を生じせしめて居なかったのございますが・・・。札の図案のある部分に「花誰」とありますのが「侵と害」の理があった由、申していたそうでございます。
 蔵同士は既知の仲だったそうで、余りにも意外な求めに大層驚かれたと聞き及んでおります。東国の某酒屋が白本屋さんを一喝。謝罪させることで一応の収まりを見せたと申します。しかしながら熊襲の蔵は憤然として図案を差し替えたとのこと。
 なんとも不動明王の如き品で意気天を衝く白本屋さんでございますが、事前に問答も為さざる相論の乱発といい、悪しき市場最適化に心持ち流されて居るのではと危惧するところございます。米党故の、熊襲の蔵への我が身可愛さと受け取られましては心苦しゅうございます。心中お察し下さいまし。

  検非違使に問われたる割増量販店商人の物語

 はい。白本屋さんの“野いのしし”でございますね。当店でも大変人気の商品でございまして。もう売れて売れて、すぐ品切れ状態でございます。は?幾らで売っているのか? 当店では店頭売価四千九百八十文で商わせていただいて居ります。何、高すぎるのではないかと? いえいえ、この値(あたい)は近辺では相場でして。お客さまにも喜んで買っていただいているのでございます。
 それこそ蔵廻りで草鞋を何足潰したことか。それだけの気持ちを込めて仕入れをさせていただいた商品でございます。もちろん真っ当に仕入れさせていただいて居ります。わたしも商人の端くれ、暴利を貪ろうなどと、露ほども思ったことはございません。

  検非違使に問われたる一酒販店店主の物語

 白本屋さんとのお付き合いは、なかなか一筋縄なことでは出来なかったのでございます。それこそ蔵詣でで草鞋を何足潰したことか。店主の顔を伺いながら、今日は話が出来ないか、明日は話が出来ないかと、何度も足を運んだものでございました・・・。それからどうなったのか? はい、今ではその苦労も笑い話でございますよ。
 当店では現在、白本屋さんの商品のすべてを扱わせていただいて居ります。“野いのしし”の価格でございますか? 白本屋さんとの結びつきを大切にして居りますもので、造司指定価格で商わせていただいて居ります。お客様に、より心持ちを軽く一本でも多く飲んでいただきたい。それがわたしの気持ちなのでございます。

  巫女の口を借りたる野いのししの白状

 破砕氷で飲んでくれ。ミミミミミミミミミミ〜(*-)

  詮議を終えたる検非違使の裁決

 酔いちくれ筑紫人、焼酎収集東人、両名に申し渡す。来月、決着をつけること。では閉廷。

◇   ◇   ◇



















「恐い話だ、恐い話だぜ・・・・・わからねぇ・・・・・俺ぁ、わからねぇや・・・・・・・人間が、焼酎が、わからなくなったぜ・・・・・・・まるで底知れぬ闇を見ているようだ・・・・」

夜。羅笑門に降り注ぐ雨は、一向に止む気配を見せなかった。(完)


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