2002.09.14 by 猛牛

銘柄
度数
原料
原産
辛蒸
25度
酒粕
鹿児島県薩摩郡樋脇町塔之原11356-1
田苑栗源酒造株式会社
製品的特徴
捕獲者
評者
レッドブック度
猛牛
猛牛
現存
■評者雑感

●当該銘柄について
芋焼酎と言えば鹿児島だが、その芋焼酎王国になぜか1点だけ存在する粕取焼酎がこの『辛蒸(からもし)』である。

私事で恐縮だが、わてが勤めている会社の若手営業マンが「牛さん、焼酎好きなんでしょ?ちょっと珍しい焼酎があるんですよ。良かったら飲んでみませんか?」とプレゼントしてくれたもの。ほぉ〜、鹿児島の粕取焼酎とは?!・・・と思って飲んだのが今年の春。

当時はまだまだ粕取へと気持ちが転んでいなかった。だから、何口か飲んで、暫く長期貯蔵状態だったのである。しかし、ここに来て俄然ボトルから“後光が発している”ように見えてきたのだ、これが!(ぬぅあんとも手前勝手な話(^_^;))

◇   ◇   ◇

さて、田苑栗源酒造さんはクラシック音楽を使った音楽振動熟成で有名な『田苑』で、全国的にも名を知られた蔵元さんである。この『辛蒸』も同様に音楽の揺りかごで育っている。

その田苑栗源酒造さんの酒蔵から1991年12月に元禄時代の焼酎造りを書き残した古文書が発見された。その焼酎とは、清酒の調製用に使われた“柱焼酎”のものだったが、その製法を現代に再現したのが、この『辛蒸』。初発売は1999年である。

この『辛蒸』について田苑栗源酒造さんに問い合わせをしたところ、同社相談役で“焼酎博士”と尊敬の念を持って讃えられる塚田定清氏より、御自ら筆を執っていただいた回答を頂戴した。『辛蒸』のみならず、鹿児島焼酎史を的確かつ簡潔に語る素晴らしい内容であるため、適時ご紹介させていただく。塚田相談役、ありがとうございました。

まずは『辛蒸』と、その背景にある鹿児島県の焼酎の歴史から・・・、

  鹿児島のお酒について歴史的な背景を先ず述べさせていただきます。ご承知の通り、温暖の地、鹿児島では美味い酒が造れませんでした。仕方なく、酒もろみを蒸留して焼酎にしました。戦前まで米焼酎を造るところ、芋焼酎のみのところ、又両方造るところがあり、米焼酎は芋焼酎の2倍の価格で売られておりました。

 戦中からの経済統制で米が自由に利用できなくなり、戦後、すべての焼酎屋が芋焼酎を造らざるを得なかったのです。現在鹿児島ではお酒と言えば焼酎、焼酎と言えば芋焼酎ですが戦前は米焼酎も30%位飲まれていたのです。又清酒も(地酒=現在は雑酒ですが熊本の赤酒も同じ)造られており、この酒を美味しくする、又酒が腐らないように柱焼酎として辛蒸を添加していました。

 米焼酎はこの清酒もろみ(仕込水がやや多いのですが清酒造りと全く同じ方法でもろみを造りました)を蒸留したものです。焼酎は蒸留酒ではありますが基本となるのは醸造酒造り(清酒)にあり、このことは現在も全く同じで、良いもろみ(発酵=醸造酒)を造る技術を焼酎メーカーは(最後に蒸留の工程がありますが)競っていると言っても過言ではありません。

 ところで、焼酎造り500年の中で明治の終わり頃から、もろみを安全に造る技術や方法が科学的に解明されはじめました。その中で捨てられたものもかなりあります。辛蒸も醸造アルコールに代用されて、無くなった一つの例です。この捨てられた技術・焼酎を現在の技術で再現したら、全く新しい発見があるのです。

というわけで、北部九州の正調粕取焼酎とは違う製法(後述)ながらも、元禄時代の古式製法を甦らせたという薩摩粕取のお味は、如何に・・・?

●ボトルデザイン:
墨書きの『辛蒸』と「元禄の焼酎」の文字。金銀箔が漉き込まれた和紙のラベル。伝統と格調というベクトルを指向しながらも、モダン・テイストがしっかりと匂い立つのは、さすがにベートーベンで音楽振動熟成を行っている蔵ならでは、であろふか。

牧歌的な庶民性が香るド伝統スタイルのラベルはわての好みではあるが、特に女性層の抵抗が予想されよう(爆)。製法のみならず、商品そのものを定着させるためには、現在のヴィジュアル・テイストで提供する必要もある。

そういう意味では、このラベル意匠は「お嬢様にも出せる、粕取です」・・・という昔の即席中華ラーメンCMの惹句風に成功しているものと言えよふ。

●香り:
籾殻使用の正調粕取とは違って、華やかな吟醸香が鼻腔内に拡散する。まったく抵抗を感じない、つまりエエ香りである。

日本酒ファンの方でも気兼ねなくトライしていただけると思う。

●味わい:
生で飲むが、舌に来る刺激は少なく、まろやかで飲みやすい。ロックだとさらにまろみが出る。一言で言えば「優しく、さっぱり」。後口、爽快である。

この優しさは、料理の味を殺さず引き立ててくれると思う。どちらかというと刺身や薄味の煮物など、素材の味わいを生かした料理と飲むのがいいかも。または後口のさっぱり感では、逆に脂っこい料理などの相方としても最適ではないだろうか。

●レッドブック度:
『辛蒸』は1999年の正式発売以来、現在も定番として田苑栗源酒造さんのカタログにある、現存銘柄だ。しかし、他の粕取蔵と同様に、酒粕の確保は大きな課題のようだ。

確かに現在の清酒の状況から、入手が困難になっております。香露や美少年さんに無理なお願いをしています。しかし協力いただけると思っています。

現在の年間生産量は15キロリットル。使われている酒粕は吟醸粕だが、もともと『辛蒸』は製法そのものが正調粕取とは違うという。

清酒粕を利用する焼酎は粕取り焼酎として全国的に造られていました。しかしご案内のような造り方なので個性的な焼酎でした。

これに対して鹿児島で造る清酒粕利用の焼酎は(辛蒸)もろみ取りだったのです。焼酎を造る(蒸留する技術=蒸留釜を持っていた)技術を持っていたから、清酒粕をもろみにしたのです。

蒸篭では籾殻を利用しなければなりませんので強烈な焼酎になります。辛蒸は古文書の仕込方法を再現すると同時に解明された現在の技術も取り入れましたので皆様に評価されたものと思っています。

蒸篭ではなぜ籾殻を使うかと言うと、蒸気を通しやすくするために籾殻を入れることで粕の中に空間を作るのである。しかし、粕に混ぜた籾殻の匂いが正調粕取の個性となっている。

この『辛蒸』の場合、原点がもろみ取りであるため、正調とはもともと土俵が違う。そう言う意味では、『辛蒸』は正調や吟醸粕使用の粕取とも違った、もうひとつの粕製焼酎としてのポジションにある特異な焼酎だ。

最後に、塚田相談役がこの『辛蒸』に込めた想いをお伝えして、本稿の幕としよふ。

 たまたま辛蒸については弊社の前身である焼酎蔵から古文書が発見されたことで再現することができ、平成5年、日経新聞の文化欄に取り上げられたことで話題になりました。再現してみるとこんな美味しいものだったのかとの思いです。今は芋焼酎王国ですが捨て去られた鹿児島の米焼酎を復活させる一歩にしたいと思っています。

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