■エコ・リサイクル材=「下粕」「粕取焼酎」の作り方。
さて。江戸期のエコ・リサイクル「粕取」さて、その「下粕」そして「粕取焼酎」はどうやって作るのか? それを解説してみよう。
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春になると、筑後の農民はメイメイ籾殻を持って酒屋にやってくる。焼酎の蒸留を手伝って肥料を手に入れるためである。
昔の清酒粕は圧搾機が稚拙なため、アルコール分がたっぷりしみ込んでいた。そのタプタプしている酒粕に水を撒きながら桶の中に丁寧に踏み込み、密閉して寝かせておく。寝かせる期間はまちまちで、より下粕を多く取りたい場合はさらに長期(一年以上寝かせた場合もあったらしい)に渡った。
この貯蔵期間中に酒粕中のデンプンは酵素の働きによって糖化され、更に糖分は酵母の発酵によってアルコールになる。
『酒精及焼酎』(黒野勘六著・厚生閣・昭和23年刊)は粕取焼酎の製造法を詳しく解説してある稀な著作である。一部引用する。
「打ち水の量は普通酒粕10貫に対し5〜6升が適当である。先ず六尺桶に漬け込む場合には5寸〜1尺位踏み込んだ所時、ジョーロで約1升5合〜2升位の水を打ち更に5寸〜1尺踏み込んだ時ジョーロで前と同じように打ち水をする。蒸留に当たっては先ず酒粕に1割の籾殻を混入し7分から1寸位の団子にし蒸篭に入れる」
との事。
余談だが、内田百聞はこの様子を自著『御馳走帖』の中で「鍬のような物で熱い酒粕をひろげて掘り返して、その上から籾殻を振りかけて引っかきまわす」と書いている(ちなみに百鬼園先生の実家は岡山の清酒蔵)。
蒸留機はもろみ取り焼酎の場合と異なり、甑又は蒸篭を使用する。アルコール分とその他の揮発成分をすっかり蒸留してしまうと、この後にアルコール分のない「下粕」が残る。ちなみに蒸留前の酒粕を肥料にすると稲の根がやられてしまう。
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下粕をとった後のアルコールももちろん貰う。この酒精は、濃くて、独特の風味はあるがサッパリとして、糖分を入れて飲むとさらに疲れを癒してくれる。しんどい田植えが終わった。さあ「早苗饗(さなぶり)」である。夏の暑い盛りには「盆焼酎」としてあおる。
この二つの民俗文化は「粕取焼酎の飲み方・飲まれ方」を参照して頂きたい。
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夏が終わると秋がくる。収穫だ。下粕で育った稲は収量が多くで質も素晴らしい。年貢を納め、清酒蔵にも米を納める。そしてまた春が来る・・・・・。
筑後の米どころでは稲作と酒づくりと焼酎づくりが、素晴らしいサイクルで共存していたのである。 |