この物語は、

九州のある地方都市の居酒屋で焼酎を飲む現地人と、

焼酎探訪の旅に訪れた異郷人との

心温まる出会いとふれあいのエセ記録である。


2002.03.19 by 猛牛

(入口から二人の現地人が入店、カウンターに座る。カウンターには先客が一人)

現地人1:大将、済んましぇんばってん、『球磨の泉』をキープいっちょ! あ、それとお湯ね、お湯! ポット、ちょうだい。昨日は飲み過ぎたけん、今日はお湯で行こ。
現地人2(おしぼりで顔を拭って)とにかく疲れますよね、最近のブームちゅーか。
現地人1:ま、病膏肓というかねぇ・・・。わてらは酔うために飲みよるんで、学問するために飲んじょぉ訳やないもんなぁ・・・。えーと、鳥皮8本、豚バラ4本・・・。

現地人2:豚バラは4本だけですか?
現地人1:いや、ここ豚バラの値段が高いったい。ネタはデカイばってん。あんたもガツガツ食うけん、金払う時が恐いったい(^_^;)。
現地人2:大丈夫ですよ、お金なら。
現地人1:お、そうな・・・。んなら、豚バラ10本に地鶏モモ焼き、鶏軟骨唐揚げ・・・

現地人2:相変わらず、いぢ汚いっすねぇ・・・(-ー;
現地人1:ま、そりゃそうと、最近えらく焼酎も風雅になったもんやね。わてとは縁がない世界になってしもうた。
現地人2:我々にとっては日常であり生活としてあるものですけど、向こうではやはりそうじゃない。ある意味、探求すべき「モノ」としてあるんじゃないでしょうかね。
現地人1:対象化された事物として存在しているちゅーか、もともと“外来”のものだから、そうなるのかも知れん。ま、カタイこと抜き!・・・ほい、お湯割り。それにしてもこのポット、年代もんばいねぇ、縁が錆びてくさ。大将、そろそろ新しいのに替えたらどげんね?(爆)

◇   ◇   ◇

(カウンターの人物、二人に寄ってくる)

旅人:突然で失礼しますが、こちらでは焼酎をポットのお湯で飲まれるのですか?
現地人2:ええ、そうですけど・・・。何か?
旅人:私は九州では普段から、前日に温泉水で割水した焼酎を千代香に注入、炭火の遠赤外線効果から導き出される玄妙なる加熱によるお湯割りを飲んでいるものと思っていました。
現地人1:いえいえ、こっちの居酒屋ではポットのお湯ですばい。千代香で出す店もありますけど、少数ですばい。普通はコレですたい。
旅人:そんな馬鹿な! 私がこれまで蓄積し構築した本格焼酎吸飲の概念とは違う。
現地人2:そんなこと言われても。まあ、これが現実ってもんで・・・(^_^;)

(旅人、現地人のお湯割りコップを奪って)

旅人:突然で失礼しますが、ちょっと一口。
現地人2:(@_@;)・・・・い、いかがですか?
旅人:まず、感想以前の問題ですね。割水して寝かせていません。
現地人1:ほぉ〜。
旅人:いや、そもそも水がただの水道水ですから焼酎の風味が活きません。焼酎を割るのには適していないのです。やはり温泉水を使うべきです。温泉水に変えるだけで、味がまろやかでさらにうまくなるんです。
現地人1:ほぉ・・・そげなもんですたい・・・。
旅人:例えば、フーゼルオイルの強い香りがある時なぞは、それが飛んでくれるようです。確実に、極めてまろやかになるのです。
現地人2:そんなに意識して飲んでいませんけどね。ま、酔って馬鹿騒ぎと・・・。

現地人1:普段はめんどくさいけん、いつも生でいくか、ポットの湯で割りよります。わても千代香やガラ、火鉢も持っちょりますけど、そうそう使わんですわ(自爆)。
現地人2:日向や球磨では、前日に割り水して置いておくなんて習慣がそもそも無いんですよ。薩摩の方だけでしょう。
旅人:そんな馬鹿な! 私は九州では普段から、前日に割水した焼酎を加熱して吸飲しているものと思っていました。
現地人1:筑前にも、もともと無かばい。ちゅーか、筑前は元は日本酒と甲類の文化圏やったけんなぁ。
旅人:なぜだ? なぜ私がこれまで蓄積し構築した本格焼酎吸飲の概念と相違を見せているのだ。そんなことは本や雑誌には書いていなかった・・・。

◇   ◇   ◇

現地人1:ま、わてなんか面倒な時は、ヤカンで燗やったりするばってん。さ、堅いこと抜きで、一杯飲まんですか?
旅人:ヤカン? 焼酎を加熱する容器として鉄やアルミを使うとは信じられません! 味が変わるではないですか!
現地人2:鉄やアルミを使うと味が変わるんですかね? 実際に鉄瓶で沸かしたお湯でいれた茶は美味しいし、アルミは酸化皮膜でしょ? だから悪影響は少ないのでは?

旅人:千代香を使うのは、焼酎を美味しく味わう九州の先人たちの知恵なのです。水もそうです。それを実際に九州にお住まいのあなた方がご存知無いとは・・・。
現地人1:わてが行きつけの喫茶店がありますばってん、そこのマスターはコーヒー豆の目利きで輸入商社が御意見を伺いに来るような人ですたい。で、実際にコーヒーが美味いとです。豆はもちろんとして、水が違うとですか?ち聞いたら「水は水道水」やて(爆)。ま、分野は違うかもしれんですけど、そげな話があるとですたいね。
旅人:私はなにも、あなたの話など聞いてはいません。

現地人2:火で加熱したところで、もちろん電子レンジで加熱してもですが、水の温まり方、つまり分子運動が活発になるメカニズムは同じだと、思うんですけど。
旅人:いえ。電子レンジではクラスターが破壊されてしまうと思います。
現地人1:くらすたぁ???(@_@;)
旅人:クラスターとはアルコールと水が緩やかに結合したものであると考えていただければ、けっこうかと。この状態は極めてまろやかな調和をみせてくれます。せっかくの水と酒なのですから、千代香が無いならば徳利でも構わないのです。火を使って熱っしたらいかがですか。
現地人2:今わかっていることは、備長炭でも電子レンジでもプロパンガスでも、加熱によって焼酎のクラスターを平等に解体する、ということなんですよ。
旅人:それは私は知りませんでした。専門書などに書かれているなら教えていただきたい。

現地人2:それにしても、千代香ジョカって・・・。今飲んでいるのは『球磨の泉』だし、球磨焼酎ならガラですよ! 焼酎は薩摩だけにあるんじゃないんですから。それに、この店はフツーの居酒屋ですよ。妙にこだわっても意味が無いと思いますけどね!
旅人:私の頭脳の中で構築され整序されているのは芋焼酎だけです。米焼酎は概念化されていません。うまいとは思いますが、未だ私にとっては混沌とした、想念を巡らす対象ですらない。
現地人1:まぁ、場所をわきまえられた方が良かっちゃないですかぁ。九州がごっちゃ混ぜになっちょるとです・・・。大将、豚足いっちょ!

旅人:(@_@;)・・・こちらでは豚足などというものも食べるのですか? てっきりつけあげやきびなごばかりだと思っていました。
現地人2:ここは薩摩じゃないんですよ(^_^;)
旅人:私が九州各県を混同しているとおっしゃるが、確かに肥後もあまり存じません。時折日向と薩摩を混同している私自身に気づかされることもあります。そうでしたか・・・この店は米焼酎に限定されていたのですね。これは失礼をいたしました。でも、どうしていつの間に肥後に来ていたのだろうか?
現地人1:済んまっしぇんばってん、ここは筑前ですばい。
旅人:・・・・・・・・・・・・・・(しばし沈黙)
現地人2:は????(@_@;)
現地人1:どげんされたとですか(──;?

旅人:今まで会話した情報はすべて私のメモリー装置から削除いたしました(・・)

◇   ◇   ◇

(旅人、無表情でそそくさと席を立つ)

現地人1:でも、どうなんやろうね。わてらは、焼酎に対して全人格を預けることなんてないやんか? ただ興味はあるばってん、飲んで騒ぐのが趣味やけんなぁ(爆)
現地人2:なにかの転機を迎えた時に焼酎との出会いというか、本人にとっては邂逅があって、それで“焼酎道”を極めることにアイデンティティの確立を感じた、ということかもしれませんね。
現地人1:よー解らん。焼酎ちゃ、そげなもんか?!(爆) ま、ご苦労なこった。
現地人2:僕たちは生活の中にあるから、取り立てて奉るもんでもないですからねぇ。ある意味、冷静に見ることができますよね。つくづく思うのが、よくそこまで焼酎やそれを造る蔵元との自己同一化が図れるもんだと、驚きます。
現地人1:ま、良かたい。楽しく飲もうや。お湯割り、注ごか?
現地人2:すんません、よろしく。





(しばらくして、二人の後ろにまた別の人物がやってきて)

旅人2:突然で失礼しますが、こちらでは焼酎をポットのお湯で飲まれるのですか?


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