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2001.10.14 by 猛牛 | ||||||||||||
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昭和12年、陶芸家・加藤唐九郎は、一対の壷を焼く。その品は突如昭和18年に、守山志段味村の村長により、無名の松留古窯出土品として考古学雑誌に発表されることとなった。『瀬戸飴釉永仁銘瓶子』、俗に言う“永仁の壷”である。鎌倉期の永仁年間の銘が刻まれた名も知れぬ完品の出現に、当時の陶芸界は騒然とした状況であったという。
時を経て昭和34年、ある文部省文化財調査官の尽力によって国宝に指定となった。ところが翌年から「本物か偽物か?」の疑惑が専門家の間で彷彿とわき上がった。これにマスコミも呼応し、全国的報道が展開されることとなる。 結局、作者の加藤唐九郎はヨーロッパに逃亡するが、ある新聞記者の執拗な追跡に根負けし、ついに自作であると発表。昭和36年に国宝指定を解除される顛末となった。これが有名な偽作「永仁の壺」事件である。 これは陶芸作品の歴史的価値と作品的価値、加えて投機的価値などなど、さまざまな価値観に対して根元的揺さぶりを掛けた事件と言えそうだが、某捏造問題が波紋を広げている昨今、思い起こすべき事件であると思ふ。 (上記文章は20数年前に古本屋で購入した骨董雑誌『小さな蕾』に掲載されていた事件の顛末記と最新のネット情報により構成。わては陶芸専門家ではないのでツッコミ無きよう(自爆)) ◇ ◇ ◇ というわけで、格調高い前説に続いてご紹介するのは『皿』である。 単に皿と書けば「はぁ?(@_@;)」と言われそうだが、この皿、最近南九州の親戚の家で“発掘”されたものである。千代香とチョクのイラストに、「黒ぢょか」「本場かごしま おはら焼酎」の文字。手書きの素朴さがぬぅあんとも味のあるものだ。 直径は約15センチくらいの、小振りなサイズ。ゆでピーナッツなどを盛るには最適の大きさで、ダイヤメのお供にはぴったりである。 |
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しかしながら、この皿の出自がまったく不明なのだ。手掛かりと言えば「おはら焼酎」の銘のみ。いつの時代の、どこの窯のものか、ツルツルの釉の如く引っかかりの無い状態。
「もしかしたら、これは“奈良時代の森伊蔵”に続く焼酎考虚学上の大発見か? いや、最近製造された皿に古色を付けた偽作では?」などと眠れない日々をかこっていたんである。気になってしゃーない。 こういう場合、どうにも探究的スケベ心が押さえられぬ不肖猛牛としては、この皿に対しての考虚学的調査を行う必要に駆られたのであった。 そこで、鹿児島県酒造組合連合会さんに対して「まっこと以てお畏れながらm(_ _)m」と画像をメールに添付してお伺い申し上げた。ところが数日して、意外なところからこの皿についての情報を得ることが出来た。 |
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な、なんと、本坊酒造さんからのありがたい情報で明らかになったが、まさに20数年前にさかのぼる焼酎考古学的(ここはマジ)にも貴重な“出土物”だったのである。「国宝指定か?!」「せめて焼酎重要文化財は間違いない!」とわての心は千々に乱れてしまった。
ともかく同社内においても、その古さ故に記録が残っていないことが、さらにこの作品の価値を高めている。なぜなら、「記録などが無い」ことにこそノベルティとして使われた大衆の生活雑器としての儚さと美学が湛えられている、とわては思うからである。 この作品が世に出た当時、これを見た人々は「ああ、オマケの皿かぁ〜(-ー;」などと思ったに違いない。しかし20数年の月日を超えて、この『黒千代香猪口絵付おはら焼酎銘皿』(猛牛命名)は往時の薩摩焼酎事情を伝える文化遺産の名品中の名品として遺ったのだっ。そしてこれからも長く伝えられることであらふ(ぐっと力こぶ)。 ◇ ◇ ◇ さて、冒頭に記した“永仁の壷”事件だが、このスクープをものした新聞記者とは、九原秀樹氏である。元朝日新聞名古屋本社瀬戸通信局長時代にそのスクープをものし、本社学芸部に転じて美術記者、現在は財団法人・香雪美術館評議員をされている。 陶芸のことは皆目シロウトだった同氏が、事件と出会うことにより、現在では陶芸の専門家となられたのは、なんとも人生の不可思議さを感じさせる。同氏が語られた言葉からひとつ引用させていただき、終わりとしたいと存じまする。 事件の取材のために、52人の瀬戸の作家に解説を依頼する中で陶芸を勉強したという氏。 「どんな物が良いものかは分らなかったが『あんたが良いと思ったものが良い物だ』と教えてくれた作家がいた。最後になってその人の言った事が一番正しいと思った」 この言葉、なにも陶芸のみならず、焼酎の世界においても同断であろうか・・・。 |
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