2002.02.02 by マルセル・牛シャン

■“焼酎大量複製芸術”の概念。

我々は印刷された画集に載っているモナリザを見て、“モナリザ”を見たと思っているが、それは本物の『モナリザ』では決してない。画集に載っているのは印刷され大量に複製されたインクの描点の集まりに過ぎないのである。作家性などというものは、そこに介在していない。

大量複製化の時代において、「作家性を問う」などという幻想を、一発の便器で嗤い飛ばしたのがマルセル・デュシャンであった。彼はフランスで開催されていた自由出品の『アンデパンダン展』に「R.Mutt」と署名した男性用便器を出品、物議を醸した。

大量生産された既製品の便器=「レディメイド」であろうと、それを見た人が芸術と認めれば、それは“ゲージュツ”だという逆転の発想。たとえその辺に転がっている焼酎の一升瓶の栓であろうと、そこに美を見いだせば“ゲージュツ”たりうる資格を持っていると言えるのだ。

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さて。本格焼酎が当初持っていた生産と消費の基盤である地域共同体に規定された表現の方向性は、焼酎芸術においてもラベル、パッケージデザインに強く反映されていた。しかし、その美の源泉として大きく作用していた“ローカリズム的作家性”は、大量生産技術と体制の整備を背景に焼酎地政学に基づいた市場拡大を目指すプロセスで、大きな変化を見せた。

つまり、意匠上において、生産地域の風土を取り込んだ土着的なムードは消え去り、大消費地=都会の消費者が心に幻視する土着観を表現するという、ぬぅあんとも倒錯し逆転したものとなってきたと思える。

その様な状況の中で、焼酎地政学的に成功を見せた銘柄の意匠を取り込んだ「近似値的芸術作品」が輩出しているわけであるが、これを“既製品”の元祖であるマルセル・デュシャンの概念を拡大解釈して『焼酎レディメイド』と規定したい。

例えば、品名が筆文字で書かれた和風高級紙ラベルに襷掛けという“作家性”漂うボトルがズラリと店頭に並べば、逆に作家性は喪失して“レディメイド化”してしまうという逆説である。(これは中身の話ではなく、「器」の話である。為念)

■“焼酎レディメイド”を超えた『桜島』ミニペットの美。

という格調高い前説に続いてご紹介するのは、わてが「紙パック」や前垂れなどたびたび取り上げている『桜島』の、そのミニペットボトルである。今回これをピックアップしたのは、ペットボトルという大量複製、大量生産技術の最たるものを利用しながらも、“ローカリズム的作家性”がしっかりと息づいているからぬぅあんである。

余談だが、このペットの素材であるポリエステルは1940年にイギリスで生まれたという。1940年と言えばちょうど第二次世界大戦の真っ最中、しかもドイツ空軍の大攻勢がはじまり英国本土航空戦「BATTLE OF BRITEN」の激戦がイギリス上空で展開された頃である。

この空の戦いは英独双方の軍事技術、特にレーダー開発に拍車をかけてその電子技術が戦後の世界を変えていくことになる。また、レーダー技術の副産物として「電子レンジ」の原型となる概念も生まれている。ポリエステルの開発がどれくらい軍事と関わっていたのかは知らないが、その技術が今、飲兵衛たちを喜ばせてくれているのだ。

ペットが焼酎に導入されたのは1985年。以来17年間の間に急速な普及を見せたのは、店頭でご覧の通り。大容量でも割れにくく、内容物への影響も少ないペットの登場によって、さらに大量生産、大量消費への道が開かれたわけである。

さて、レディメイド性の高い素材・容器を使いながらも、焼酎大量複製時代の芸術作品として称揚されうる作品を生みだしている本坊酒造さんであるが、このミニペットも他のラインナップと同様に、完成度が極めて高い。

イラストやカリグラフィーの素晴らしさは改めて繰り返さないが、このミニペットでも地域色ぷんぷんのARTセンスと飲用容器としての機能性がしっかりと共存しているところが相変わらずさすがである。まさに“超レディメイド”的焼酎芸術作品だ。実に美しいぃ〜。

桜島の横広のグラフィックを活かすために採用されたのであろうか、丈の低い寸胴なボトルが実に安定感が良く、グリップもしっかりしている。200mlの同容量のペットでは縦長のものが多く、列車やバスの旅では転倒しないかと気になってしゃぁない。

ゴロッ・・・ドバッ! 「(~O~;=;~Q~)アン アアン」

などと、一滴でさえもおろそかにしたくない諸兄で泣きの涙を見た方もあろう。そのような心配はこのミニペットでは大幅に軽減されると言える。

酒屋の棚で作家性を主張する“民俗的意匠”の一升瓶たちに“レディメイド性”を見取り、逆に大量生産の権化ともいうべきペットボトル商品に“作家性”を発見してしまうのは、単にわてがへそ曲がり故かも知れない。

しかし、芸術的でございなどという邪心などなく、無機的なごくごく大衆性あふれる素材を利用しながら、飲用容器としての機能性もしっかりと踏まえて、しかもローカルに根ざした焼酎芸術創造の可能性を追求している・・・そんな『桜島』商品群に強く惹かれてしまうのは事実ぬぅなんである。

というわけで、あの「ローズ・セラヴィ」に『桜島』を一献奉りたかった。“彼女”はどんな味だって言うかな・・・?


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