2002.01.09 by 猛牛

■「着る商標」としての、トラディッショナル性高い作品。

焼酎ファッションという観点から、前回は現代的素材・デザインで制作された『いも麹芋』の前垂れについて語ってみた。さて、今回はある方からありがたくももったいなくも御提供いただいた本坊酒造株式会社さんの『桜島』前垂れである。

一言、極めて伝統性を重んじた、トラディッショナル・スタイルの作品だ。

デザインに関して言えば、『いも麹芋』前垂れに見られたモダニズムは排除され、古来から連綿と続く本邦の商風俗習慣に忠実に沿った出来映えとなっている。

とは言っても、この作品が月並みだと申しあげているのではない。“トラッド前垂れ”であるからこそ、本坊さんらしく、かつまた美しいのである。

肉太の筆致が素晴らしい『桜島』ロゴについては、以前紙パックの稿でも触れたのであえて繰り返しは避けるが、この肉太のロゴを活かすには、わてはこのトラディッショナルな生地、色でなければ映えないと見た。

それはなぜなら、前垂れは「着る商標」として企業の顔そのものであり、酒販店や卸といった営業・販売の最前線で企業の存在感をファッションに仮託してアピールする、重要なアイテムだからである。企業の個性が前垂れに凝縮されておるのだ。

例えば、国分酒造さんの『いも麹芋』前垂れがモダニズム漂う作品になっているのは、同社の製品化および流通、消費に対する企業理念、これまでの商習慣を超克し自らの領域を独力で切り開こうという姿勢が、前垂れ制作に反映されたからだと見る。そして前垂れそのものの素材や質感などの選び方は同社の個性にぴったりだ。

『桜島』前垂れでそこはかとなく漂うのは、薩摩大手蔵元としての歴史や伝統、重厚といったキーワードだ。『桜島』という薩摩の代名詞のひとつである誇り高いネーミングに合致させる上でも、前垂れデザイニングとしてはトラディッショナルなスタイルが最適である。

■「まいど!」的商形態の衰退と、酒販前垂れの現在的存在意義。

ここまで論を進めてみて、前垂れが今も習慣・風俗の中で厳然として生きている酒の商いの環境について、ふと考えてみた。まぁ、酒販だけでなく味噌・醤油などの醸造系、はたまた米穀販売などでは特に、前垂れが商環境に今も生きているであろうと推測している。

この前垂れに不可欠なものと言えば、「揉み手」に『まいど!』のかけ声であろう。いや、もうひとつあえて加えれば、

『ちゃす! 三河屋どぅえす!』

であろうか。

その様な前垂れの原風景に立ち現れてくるのは、わてにとっては「ご用聞き」という営業手段である。地元に長年御店を張る個人商店が、経営者自らか奉公人が各家庭に出向き、入り用の品を聞いて回る、という商いのスタイル。

もちろん流通の変革、消費の構造の変化によって、このご用聞きというスタイルはまったく衰退してしまっている。今は大型ディスに車で乗り付けて酒を買う、はたまた個人商店にネットで注文する、ぬぅあんて時代になってしまった。

瀟洒なエプロンに押されて、前垂れを見る機会はますます減ってきている。

ところで。現在の一般流通商材の世界で、最も古くからの体質が残っているのが酒の世界だ、とその道に詳しいある先達から聞いた。つまり、個人的なつながり、付き合いの深さ、仁義を大事にするということが、特に根強く残る業界だとおっしゃる。

なんでもビジネスライクになれば良いというものではないし、そのことの是非を論ずる資格はわてにはない。しかしながら、酒の流通・販売の世界で、大きな変革の波が現在急激に進行しているのは、ここ数年報じられている通りである。

わてが思うのは、ますますこの「前垂れ」に象徴されていた日本の商いの原風景が失われて、酒販業界を最期にその姿を消しつつあるのでは無いか、そして前垂れそのものも消失するのではないか、という危惧である(おおげさだねぇ〜)

■「こだわる男のグッズ」としての今後の展開。

前垂れに幻視する個人的ヨタ話はひとまず置いて。一般家庭における焼酎ファッションとしての前垂れの有用性について触れてみたい。

実際、前垂れが現在も永く生き続けている最大の理由は、その耐久性や便利さであろう。実際にこれを着けて家事をやると、ほんに上体が動かしやすく、かつ膝・腿をしっかりと保護してくれるのだ。

昨年末、晦日の日に『桜島』前垂れと同仕様の前垂れを着用して、“大掃除”なる強制労働に従事させられたのだが、実に実に作業が容易であった。“強制”ではありながらも、端から見ると前垂れの重厚さが醸す「威厳」が、亭主族の自尊的立場を保護して面目を保ってくれる、という思わぬ効用も発揮されたのである!!!!!!

アウトドア志向の焼酎愛好家諸兄にとってもお勧め。バーベQを楽しまれる時に、威厳を持って家族に料理を饗することができる。「へい! 粗挽きそーせーじ、いっちょ!」ぬぅあんて言いながら差し出すも、また一興。

もちろんご自宅で「男の料理」を楽しまれる能動的諸兄にも有益なアイテムである。やはりかわゆいエプロンでは、ちと軟弱の誹りは免れんのだぁ。

というわけで、ぜひ焼酎愛好家諸兄の「前垂れ着用就労」をご提案する次第である。


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