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2001.07.06 by 牛心亭無楽 | ||||||||
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「味噌なめて 晩飲む焼酎に 毒は無し 煤け嬶に 酌をさせつつ」
うまい狂歌が残ってございます。これは薩摩は出水市にございます開墾記念碑に刻まれました歌でございまして、開墾した大地から採れた作物で味噌まで造れるほどになった・・・ええ、そんな苦労を共にした女房と差しつ差されつ飲む焼酎の旨さ。その満足感と申しますか、庶民の感情を表したものでございますな。 薩摩焼酎落語界の重鎮・南州亭あぷてぃば師匠風に申しますなら、“ろーどーとせーかつのアイデンティティの合一”・・・ぬぅあんてところでございましょうか。 前の日に割水した芋焼酎を、こうツツツツツと黒千代香に入れまして、自在鈎に掛けておく。ってんで、女房がほどよく温まった頃合いを見計らって、チョクに注ぎます。それを亭主がクイッっといただく・・・。ウーロン茶で割ったり、梅干しを入れたりなんてぇ飲み方では、どうもうまくございません。 とは申しましても、庶民の酒でありました焼酎も、最近は値が上がったものでございまして、「プレミアム焼酎」だの「ヴィンテージ焼酎」だの・・・ハイカラな呼ばれ方をされる銘柄も世間では流行っているそうでございます。焼酎もエラク出世したもんっ。 さて。穢土時代におきましても、たいそう芋焼酎が流行った時期がございまして・・・熱狂的な芋焼酎連と申しますか、通の方がたくさんいらっしゃったそうな。・・・その時分にわざわざ焼酎を飲みに薩摩に参った穢土っ子のお話でございます。 |
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熊 おお、やっと拝めたぜ、桜島が!
八 うれしいねぇ。やっぱり芋焼酎飲むなら本場に限るからなっ。 熊 ほれ。桜島の灰をかぶって。これがほんとの“熊、灰だらけ”。 八 カバ言ってんじゃぁ〜ない。そりゃ“猫”だろ。 熊 うれしいやな。やっと本場・薩摩で芋焼酎を浴びるほど飲めるってんだからなぁ。 八 そりゃそうと『焼酎極楽』ってぇ店に予約は入れたのかい? なんでも聞くところに 熊 あたぼーよ! 予約入れねぇでどうする? お伊勢参りをきゃんせるして“極楽詣 もうとっぷりと日も暮れた時分。取り留めもない話をしながら、薩摩の町中を長々と歩いておりますと、天文館という所に出て参りました。天文館と申しますのは、薩摩で一番の歓楽街でありまして、そこかしこに芋焼酎の匂いを漂わせた千鳥足の御仁が右往左往している、そんな粋な場所でございます。 熊 ここがあの有名な天文館ってところかい。はぁ〜、泣けてくるねぇ。穢土は羽田を飛 八 おめえの詠嘆調は後でいいんだよ。早くその店、探そうぜ。もう、飲みたくて飲みた 熊と八のふたり、天文館の往来の中、『焼酎極楽』の場所を聞き出しまして、たどり着きました。白地の、やや小振りのエレキ行燈に、手書きしましたような『焼酎極楽』の文字、夜の闇、店先に浮かんでおります。ここか!ってなもんで、勇んで店に飛び込みまして、 熊 おっ、邪魔するよ!・・・ほぉ、話には聞いていたが、この焼酎の数!凄げぇや! 八 穢土じゃぁ見かけねえ銘柄がわんさとあるぜ。こりゃたまらねぇなぁ(じゅるっ)。 熊 おい、どれから飲むかい? ありすぎて迷っちまうな、こりゃ。 八 慌てなさんな。夜は長いぜ。粋に飲まねぇとな。ま、とにかく腰落ち着けようぜ。 店員に案内されまして、熊と八、一番奥の座敷にあぐらをかきました。座敷やらかうんたやら、とにかくぅ、その回りに芋焼酎の一升瓶や五合瓶が所狭しと並んでおります。もう焼酎だらけ。ええ、地獄の沙汰は金次第、ぬぅあんて申しますが、“極楽の沙汰は焼酎次第”と言ってもいい偉容でございます。 八 さてと・・・品書きはどれかなぁ。ん? 焼酎の名前が載ってねえや?!。 熊 あれ、無ぇなぁ・・・うむ。どうやって注文すりゃいいだよ。ええ・・・。目の前に あーだこーだと言っている二人が気になったのか、隣の客が親切に店の流儀を教えてくれました。旅人を心やさしく迎えてくれる土地柄のようでして。 客 遠来の方のようだが・・・ここは自分が飲みたいと思う瓶を自分の卓に何本でも持っ 諭されたのが気に入らねぇのが、熊八でして、教えて下さってありがてぇと・・・素直に礼を言えばいいん。ところが逆に開き直っちまうから始末に悪いっ。 熊 おっと、客人悪いが、いまそれを言おうと思っていたんだぁ。な、八。 八 そうよ。こちとら穢土っ子でぇ。先刻承知の介。田舎もんに教えて貰うこたぁねぇや 熊八が、まぁ、ぬぅあんとも理屈にもならない理屈をこねているところに、かうんたの中から女将がツツツツツツ〜〜と出て参りまして、 女将 遠路はるばるお穢土から、ようこそお越しいただきました。『焼酎極楽』の女将のお 八 女将、さすがだねぇ〜〜。俺ぁ、気に入ったな! さ、飲もうぜ! 熊 よし! 女将、『杜伊蔵』ってぇ焼酎はあるかな? 大層旨いそうじゃねぇかい。 女将 はぁ・・・。申し訳ありませんが、うちには置いておりませんよ。そんなに味の差は 熊 ところでここには黒千代香はねぇのかい? 焼酎をいただくには割り水した焼酎を一 女将 済みませんが、いまでは保温瓶に入れたお湯と硝子杯でお湯割りにして飲むというの 熊 おろ・・・。 女将は怪訝な顔で奧に引き取ります。肩透かしを食った気分の熊と八。それじゃってんで棚に向かって銘柄を選びはじめました。穢土では見かけない物ばかりですんで、とにかく両手に瓶を抱えちゃぁ〜膳の上に並べます。 熊 『万亀女』『亀六郎』『伊佐巨泉』『黒金の露』・・うむ。いっちょ飲んでみるか。 (ジャーーーーーーッ)(トクトクトク・・・) 八 うふぁ〜〜〜! 臭ぇ! なんだいこりゃ? 臭くて飲めねぇや! 熊 大きな声だして言うんじゃねぇ。さ、飲むぜ・・・・うめえ!うめえや! 八 『馬王』はねぇのかな、『馬王』は。俺ぁは梅干しが欲しくなったっ。梅干し呉れ。 この芋焼酎の匂いと申しますのが、一度ハマると抜けられないってぇくれえの、魅力があるもんですが。慣れないうちは、“臭い”なんてぇことを申します。熊と八は、普段飲んでた芋焼酎がやはり“大穢土う゛ぁーじょん”。匂いも大人しいものをいただいていたようです。 色々と飲んでみますもんの、本場の芋焼酎は匂いが強い。そこで、肴をいただこうと「とんこつ」や「つけ揚げ」「きびなご」などを次々に注文いたします。とにかくぅ、長旅で飯を食っていない・・・腹が減ったってんで・・・ガツガツと薩摩料理を平らげてしまいました。 熊 食った食った、飲んだ飲んだ。もう入らねぇや・・・・。 八 それにしてもお前食ったなぁ・・・。勘定、大丈夫かい? 熊 正の字数えてっと・・・肴入れて全部で二百六十文。・・・八、お前、財布ん中に、 八 ひぃ、ふぅ、みぃ・・・百三十文。 熊 ・・・・俺は百二十九文。一文足らねぇな・・・。 八 おい、どうするよ? ここで居残りってぇ訳にはいかねぇぜ。 熊 任せろ。俺に良い考えがあるんだよ。粋に収めねぇとな・・・おっ、女将!勘定頼む 女将 はいはい。お待たせいたしました。・・・何杯お飲みですか? 熊 おぅ! じゃ、数えるぜ。一、二、三、四、五、六、七、八、 女将 もう、一時ですよ。 熊 二、三、四・・・ 八 おぃおぃ・・・。やっぱり焼酎は目黒に限るぜ(T_T)。 お後がよろしいようでm(_ _)m |
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