美奈宜の森から望む、耳納連山と筑後平野のパノラマ
2002.09.22 by 猛牛

■家人の情報から、またしても筑後へ“粕取”なのだ!(-"-)

9月22日の朝である。

コーヒーを飲んでいたら、家人が突然ある出来事を語りだした。それは、一昨日銀行のロビーで雑誌をパラパラめくっていたら、福岡県の特産物紹介の記事があり、そこに筑後は甘木市の某蔵元さんの粕取が掲載されていたというのである。吟醸粕製ともうひとつ粕取が紹介され、名前は丸山酒造(?)だったと・・・。

やはり先週決行した懺悔の平戸行き、贖罪の鯛茶漬けが効いたというべきか。フ、フフ、フフフ、フフフフ、フフフフフ・・・。

「ん〜〜ん、ど〜しようかにゃ〜〜〜(>_<)」と作為的思案の腕組みをしていると、家人が「気になるなら行ってみたら? 電話して確認したらいいわよ」と助け船。 えーめん!

◇   ◇   ◇

さっそく福岡県酒造組合のHPで電話番号を確認した。正式名称は『丸山酒造合資会社』さん。場所は甘木市の三奈木という所らしい。とにかく電話してみる。

受話器を取ったのは、おばあちゃん。名乗ってから粕取について伺うが、よく話が聞き取れないようだ。

おばあちゃん「籾殻入りのですか?・・・はあ、いまはもう造ってないんですよ・・・あの香りが合わないみたいですよねぇ、いまどきはねぇ・・・はい・・・は? ああ、昔の粕取はほんと旨かったもんですよ・・・え?・・・はいはい、いまは吟醸粕を使った・・ねぇ、吟醸の・・・あ、ちょっと待って下さいよっ」

次ぎに電話口に出られたのは、二代目か? 若いお声だった。

二代目「済みませんが、もう昔の粕取は無いんですね・・吟醸粕取しかありません・・はい・・籾殻を使ったものでしたら、杜の蔵さんがされていらっしゃると思いますよ・・籾殻を使ったものはなかなか飲まれなくて、ですね」

電話を切るが、どうにも気になる。家人がわてに話を伝えたのも何かの縁だと、思い切って行ってみることにする。往時の粕取焼酎の話が聞けるだけでもいい、と割り切った。

■雄大な筑後平野の田園風景を、一望する。

筑前西部から都市高速、そして九州縦貫道から大分道に接続して、一路朝倉インターへ。まっさきに丸山酒造さんに伺うが、先ほど電話に出られた若い方は1時間ほど外出中という。そこで、秋月まで回って時間をつぶす。

甘木市三奈木から秋月へと向かう途中の丘の上に、「美奈宜の森」という住宅街がある。ここから見下ろす筑後平野、そして背後に迫る耳納連山のパノラマは、ほんとうに雄大である。福岡県を代表する大穀倉地帯が、この地域。この延々と広がる田園地帯の一角に、丸山酒造はあった(上記画像中央に建つアンテナ状の塔のすぐ左に少し見える黒い突起が同社の煙突)

見晴らしの良い丘から下ってすぐ、川に掛かる橋の側に、蔵は建っている。橋の上から眺める周辺の風景にも、長閑な空気が漂っている。じつに気持ちがエエのだ。
■丸山専務が語る、同地の嗜好と焼酎製造の状況。

蔵に戻って事務所を覗くと、人の気配がない。しかし、道を挟んだ反対にある駐車場から、人が事務所へと戻ってきた。飛び込みで失礼とは思ったが、お声をかけてみた。

お話をすると、やはりわてが家から電話したときにお相手をしていただいた方であった。「ああ、あの電話の○○さんですか」と納得していただき、事務所内へと案内していただいた。名刺を頂戴すると、代表取締役専務の丸山博明氏である。

専務「はい。もううちでは、籾殻を使った昔ながらの粕取は造っておりません。飲まれる方もほとんどいらっしゃらないようになりましてね。あの香りが合わないようですね」
猛牛「こちらの周辺では今はなんが主流なんですか?」
専務「焼酎で言えば、麦、米ですね。うちでは芋も造ってます」

まだ筑後では何社かが正調粕取を造っているが、こちらではもう製造を中止して久しい。

さて、丸山酒造さんだが、元々は清酒蔵。主力商品は『國の香』『大黒天』、焼酎は『とものわ』

最近は『帝王』『みなみのまちびと』という新銘柄も投入しているという。焼酎については、地元よりも関東や関西での引き合いが多いらしい。

確かに、わても失礼ながらあまり地元でお見受けしたことがないと申し上げた。

専務「もろみ取り焼酎の免許は昭和32年頃に持ってまして、その頃からもろみ取りに転換したようです」
猛牛「ちなみにその頃の銘柄は、何という名前やったとですか?」
専務『銀波』でしたか。ぎんぱ、です。でも、他の蔵元さんが先に商標を登録されていたんで、それを廃して、現在の『友の輪』に変えたんですね」
猛牛「なるほど。で、現在の粕取銘柄はどげな風になっちょるとですか?」
専務「ちょっと待って下さい、いま持ってきますから・・・」
丸山専務とお二人の御子息の記念撮影^^
専務が現行の粕取銘柄を奧から持っていらっしゃった。どちらも吟醸粕製、もろみ取りの商品である。

左が、ラベルに“早苗饗(さなぼり)”の文字が入った『とものわ早苗饗【限定品】』25度。右が、『ふるさとの便り』30度で、こちらは山田錦を使った大吟醸粕をベースにしている。

専務「実はこの『ふるさとの便り』なんですが、飲んでみますか? ちょうど先日関西の試飲会で振る舞った残りがありますんで・・・、どうぞ。」

と専務がグラスになみなみと注いで下さった。

猛牛「あ、そげんたくさん注がれたら・・・あらっ(-ー;」

と言いながら、グビグビと飲んでしまった(自爆)

家人もすこし舐めてみたが、美味しいと言う。吟醸粕取ながらも吟醸香が強くない、というかしつこくない。酒の滋味というかベーシックな味わいが感じられた。悪くない。

猛牛「関東や関西での受けは、どげんですか?」
専務「評判はいいと思います。やはり関東でも受けがいいですが、関西では度数の高いこの『ふるさとの便り』の方が出るんですよ、面白いもので。」

猛牛「ところで、こちらでは早苗饗という風習はまだ残っちょるとですか?
専務「確かに残っているかもしれません。でも、昔は粕取焼酎を飲んでされていたらしいですが、こちらでは清酒ですね。清酒が強い土地柄です。あとは麦、米、そして芋ですか」
猛牛「そうですか・・・。正調粕取は昔飲まれていたお年寄りは、あの味でないと満足できんとおっしゃるそうですねぇ」
専務「はい(^_^;) 実はうちのおばあちゃんが、籾殻を使った昔の粕取が大好きなんですよ。あれは本当に旨かったって・・・」

猛牛「蒸留は常圧ですか
専務「うちは減圧ですね。やはり関東では米焼酎でも、先様の話だと香りがあると嫌がられるみたいなんですよ。だから、なるべく落としてくれというところで。ただ風味をどう残すかはいろいろと試行錯誤しています」
猛牛「粕取でいくと、兜釜とかセイロなんてのは、もう・・・?」
専務「ちゃんと残ってます。倉庫の奧になおしてます。整備すれば使えるとは思いますが」

設備はまだ残っているらしい。しかし、正調粕取受容の時代が過ぎるとともに、倉庫の奧へとしまわれてしまったとのこと。淋しい話ではある。どんなものか拝見したかったが、そこまでお願いするのも無礼、諦めることにした。

猛牛「粕取を造られている他の蔵元さんでも、原料の粕が入手難ち言われますが?」
専務「そうです。酒粕が手に入りにくいんですね。それと、うちでも奈良漬けを漬けているんですよ。贈答用にお得意様にですね。ですから、手当が付かないところです。吟醸粕は自社のものだけを使っています」

原料難は、まさに汎業界の問題となっている。頭が痛いのだ・・・。

■おろ? 意外や意外、ピーナッツ焼酎の旨さ!

さて、歓談の最中。専務が「おもしろいものがありますけど」とおっしゃって持参いただいたのが、珍しい原料で出来た『ピーナツ焼酎V5』。文字どおりピーナッツの焼酎である。

ピーナツ焼酎、う゛、う゛い・ふぁいぶ!・・・とは、これはまた凄いネーミングだ! わては仮面ライダーをイメージしたが、家人には「まるでアリナミンVドリンクみたい」に見えたらしい。専務に失礼だが、わて、このキッチュさに惚れた!

専務「これは実は、あの“白色革命”って言われたブームの時がありましたよね。あの時に造ったものなんです」

なるほど! 瓶の形状やラベルデザインに、その当時の空気というかムードがじんわりと感じられる。分かりますわぁ〜。

専務「50%以上使っていないと、表示できませんから。これはピーナッツを50数%使用しています。でも、ピーナッツ臭というか、ピーナッツの油の匂いが気になるという方もいらっしゃいましてね。なかなか難しいですね、香りの問題は・・・」

実際に飲ませていただく。

ピーナッツの香りがいい具合で出ている。好みの問題はあるが、ピーナッツ好きのわてはまったく気にならない。飲んでも、しっかりと味が伝わってきた。面白い商品だ。

専務「香りと味のバランスを試行錯誤して、この商品については、5年寝かせて出荷していますね。5年でちょうどいい具合に“馴れ”てきます」

この商品、5年貯蔵である。お値段はと伺うと、千数百円。安い。V5の数字も5年を意味しているという。で、「Vは?」とお聞きすると、

専務「あ、いえ、単にイメージだけで付けたもんでして(^_^;)」

アルファベットが多用されたあしらいのコピーにしても、あの当時をほんに偲ばせる。白色革命を意識して、多くの本格焼酎メーカーが洋酒や甲類風のハイカラデザインで市場開拓を図ろうとしていた、そんな時代の「顔」が、そこにあった。

本格焼酎の視覚的潮流は、今では漢字+毛筆+和紙というまったく180度逆の世界へと転化している。しかし、この「V5」のデザインは逆に“民俗学的意匠”として愛おしいものにわては思えた。えてして「土俗的でござい」と見える事物にこそ、最先端の計算が潜んだいたりするもんである。

専務「造りに関しては、いまいろいろと勉強の最中です。試していますよ。失敗もしていますが、今以上に納得できるものを出していきたいですね」

◇   ◇   ◇

わては探偵団用に『とものわ早苗饗【限定品】』と個人用に『ピーナツ焼酎』を、家人は友人の土産にと『ピーナツ焼酎』を2本、購入。

専務は、良かったら『ふるさとの便り』を持っていってくれと勧めてくれたが、「買って帰る主義ですので。どうぞその分をお店で売って下さい」とご厚意だけ頂戴した。フリの客にも丁寧に熱心に応対していただいた丸山専務の誠意に、わても家人も感心。

ありがとうございましたm(_ _)m

正調粕取はもう消滅していたが、人情はまだまだ熱く蒸留中・・・そんな印象を受けた筑後の一日であった。


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