2003.05.30 by 牛心亭無楽

毎度、カバカバしいお笑いを一席。

ええ。世の中、何かにつけて、一言文句をつけなきゃ気が済まねぇってお方がいらっしゃるもんで・・・。昔は“小言幸兵衛”なんて名前を奉っていたもんですな。落語のネタにも「小言幸兵衛」、またの名を「搗屋幸兵衛」というものがございます。

まぁ、小言も小言で済んでおりますと、これもまた、可愛げのあるもんではございますが。中には小言では済まねぇで、“大言”に脹らんじまう方もいらっしゃるようでございますな。

こういうお方が酒席なんかに入ってるってぇと・・・座がすったもんだしちゃう。飲んで酔って、楽しみゃぁイイんだが、なにかと理屈っぽくなっちまいますな。「酒席に政(まつりごと)と信心の話は御法度」なんて言葉もありますが、どこ吹く風ってもんで・・・。

◇  ◇  ◇

さて。江戸は麹町、長屋の外れに、一軒の焼酎専門居酒屋がございまして。夕方んなりますと、三々五々、そこらへんの職人やらが仕事を終えて、いっぺぇ引っかけに参ります。これから伺いますのは、その店によく顔を出す、“大言酎兵衛”と呼ばれる、あるご隠居のお話でございます・・・・。

ふぅ〜。今日のぉ仕事はぁ辛かったぁ〜、っか! おう! いっぺぇ頼むぜ! 芋だ、芋! ロックでな!
お! 熊じゃねぇか。待ってたぜ!
居たのか! 一緒に飲ろうぜ。 それにしても熱いなぁ。もう夏だな、夏。
ところで、お前ぇ、瓦版屋に臨時雇いって聞いたが、ほんとかぁ?
瓦版屋なんていうんじゃねぇや。升虚見と言ってくれぇ、升虚見ぃ!
まぁ、いいさ。さてと・・・俺は次はと・・・やっぱり芋だな、流行りだからな。おう! これいっぺぇ、ロックでくんな!
熊さんと八っあんが、なんだかんだ言いながらも、ええ〜、楽しく飲ってますってぇと。そこに現れましたのが、長屋のご隠居で、筑前屋牛兵衛。筑前生まれの江戸っ子でございます。昔っから筑前の麦焼酎ばっかり飲んでおりましたのが、最近の流行りってぇやつで、芋焼酎に目覚めたというお方でございます。別名「大言酎兵衛」。
酎兵衛 おろ。熊さん、八っあん、飲ってるかい?
こりゃ、ご隠居。お久しぶりで。
酎兵衛 ん? ふたりとも、銘柄は、なん飲んでる?
へぇ、芋で。『イモもろみ芋』でさぁ。
酎兵衛 熊さん、八っあんも目利きだねぇ。“筑前人が刮目した芋焼酎”だよ、それは。
旨いっす! でも、暑いんで、ロックでキュッ〜〜〜!と。
酎兵衛 ・・・おろ? 芋に岩氷かい? そりゃ、イケナイ。芋に岩氷は無ひ!(-"-)
いえね。ちょいと暑さが半端じゃないもんっすから・・・。
酎兵衛 暑いも薄いも無ひ。ご当地では、夏でもお湯割りというもんだ。ひぃーひぃー汗ぇかいて飲むのが、心意気ってもんだな。他の焼酎なら、なんで飲もうが構いやしないが、芋はお湯割りでないとイケマセン。
 
さすが、ご隠居! こだわりが違うぜぇ。
酎兵衛 ま、次いでにいっちゃぁ、なんだが。ロックなんて言葉を使っちゃぁ、興ざめってもんだ。「岩氷」と言わねぇと。ロックは“敵性語”だ、“敵性語”。
て? てきせいごぉ〜?
酎兵衛 八っさんは、なんにも知らないのかい? 何日か前ぇに、浦賀にメリケンの黒船が来たじゃあないか。今にでも大砲をぶっ放すんじゃねぇかって、江戸八百八町がてんやわんやの大騒ぎだ。お上が『憂時異国船打払出動令』のお触れを出そうかってぇご時世になっちまってるよ。敵の言葉だ、使っちゃイケマセン。
へぇ・・・。
焼酎飲んでの浮世話といいますと、色恋沙汰の悩みだの、焼酎美女の噂だの、はたまた嬶ぁの悪口だのと、まぁ、相場が決まっておるもんでございます。しかしながら、このお方が入りますってぇと、ぬぅあんとも高所大局、気宇壮大な飲み屋政談に相成っちまう・・・。

升虚見に、人入れ屋からの派遣で日銭稼ぎに行っております熊さん。なまじ付け焼き刃の知識ってのがあるもんで、隠居に話を合わせました。が、これがいけなかった。

ご隠居は焼酎だけでなしに、ご政道にも詳しいぜぇ。尊敬しやす!
酎兵衛 まぁ、私が棺桶ん中ぇ足突っ込んでから、そりゃ数十年後の話にゃぁなるが、筑前は、東山満翁や過山重丸先生を筆頭に、国士を生み出そうってお国柄だ。そりゃご政道にも詳しくなろうかってもんだ。筑紫は國のまほろば、といってな。
そりゃ、凄ぇ! ご隠居、ぜひ今度は、うちの瓦版に一筆願ぇねぇか?
酎兵衛 な、なんだい?! 熊さんは“でぇく”じゃねぇのか? 升虚見かい?
へ、へぇ。ちょいとそこんところに、口が見付かりやしてねσ(*^^*)
 
酎兵衛 いったいぜんたい、どこの御店だい?!(-"-)
へぇ・・・。蔦朝重三郎の旦那のところで・・・。
酎兵衛 なんだい、なんだい、あそこかい! 『憂時異国船打払出動令』の裁可には異を唱えるわ、誤報はやらかすわ、とんでもねぇ“左髷”の瓦版屋じゃないか。近頃あそこが出した『俳風樫樽』って川柳本には、なんだ、「武具甲類屋 メリケン様と そっと言ひ」なんてぇ、お上のお台場政策を皮肉った川柳が載ってたって話だ。熊さん、すぐにでも大砲ぶっ放されるってぇ時に、呑気なこと、書いてもらちゃぁ〜、困ったもんだな。熊さんは、いつ左髷になっちまったっ!(-"-)
あっしが、左髷だなんて(^_^;) 右髷でやんすよ、右髷!
 
酎兵衛 御将軍家三百年の治世。天下太平の世もいいが、いざ鎌倉ってぇ時に、太平呆けしてて、どーする。最優先は、日の本の安寧秩序だ。お上のご政道に左髷町民や升虚見が楯突くたぁ、何事だ。な。唐國でも、太平天国なんて脳天気なこと唱えていた輩は、すぐに成敗されちまったじゃぁないか。
太平天国? そりゃぁ、ちょいと話に違ぇがあるんじゃねぇですか?(^_^;)
酎兵衛 お黙り。私に講釈するんじゃありません(-"-) だいたいが、私は「文人文屋 メリケン様と そっと言ひ」と、言い換えたいくらいだ。左髷の文人や瓦版屋ほど、困ったものはありません!
 
ご隠居! ちょ、ちょ、ちょいと待っとくれ! 話が・・・(^_^;)
酎兵衛 いやいや、待てないよ。もしかして、熊さんはメリケンと不義内通してんじゃないのかい? ああ、きっとそうだ! 熊さんは“同胞なるえねみー”だな(-ー;
そ、その“えねみー”たぁ、ご隠居、なんのこってぇ?
 
酎兵衛 八っあんや。“えねみー”たぁ、あたしらと同じ顔や肌ん色をしてるが、実をいうと、メリケンに馴染んで向こうの“お庭者”になってるてぇ輩たちのことだ。
く、熊公ぉ! 手前ぇ、いつから、その“えねみー”てぇモンになったんだ!
違うってぇのに・・・。あ! もしかしたら、八、手前ぇこそ、怪しいじゃねぇか? そういや、浦賀に黒船が来たってぇ時、手前ぇ、浦賀にちょいと荷を届けに行ったって、聞いたぜ。 怪しいヤツだ! “えねみー”に違ぇねえ!
俺ぁ、浦賀にも行ってねぇし、そんな事ぁ、しゃべったことも無ぇ!(T_T) それだったら、手前ぇこそ、怪しいじゃねぇか! 浦賀に夜な夜な耶蘇教の集会に行ってるって噂聞いたぜ! 「社会のえねみー 隠れ念仏 切支丹」!
なにいってやがる! 俺様ぁ、由緒正しいお伊勢さんの信者だ! ちゃんとお蔭参りにも行ってらぁ(-"-) 手前ぇの方だろ、“えねみー”ってのは!
酎兵衛 ・・・まぁまぁまぁ、二人とも“お止めなさい”(^_^)
居酒屋ん中で大騒ぎが続いている内に、いつんまにか、ギヤマンのコップに入っておりました氷も溶けてしまいまして、ええ、焼酎もぬるくなっております。

熊も八も、互ぇに矛先が向いてきたってんで、話を変えようと、新しい一杯を頼んでみることに致しました。

ちょいと済まねぇ。筑後の焼酎で・・・ほれ、そこの・・・『筑紫次郎』って麦いっぺぇ“岩氷”でくんな!
酎兵衛 おお、八っあん。お目が高いじゃぁないか。わが故郷の名品だな。まさに國酒。
そ・・・その“こくしゅ”ってのは、そのぉ・・・どういう意味なんで? あっしは文字はからっきしダメでして。
酎兵衛 “こくしゅ”かい? こくしゅは“國の守り”と・・・こう書いて、こくしゅ。焼酎も國を守ること、愛國心と深く通じておるわけだな。
 
が、合点! で、この『筑紫次郎』ってのは人の名前ぇでやんすか? 面白ぇ名前ぇだぁ。
酎兵衛 これはな、川の名前なんだよ。あのあたりでは、筑後を流れる一番大きな川だな。それをその土地のもんは『筑紫次郎』と言い習わしておる。
なるほど! 川の名前ぇですかい。そりゃぁ、知らなかった。ご隠居は、やっぱりお詳しいやぁ。
酎兵衛 そういえば、あの川に「次郎大堰」ってぇ大きな水溜を普請するってぇ話があったな。あそこの川には、色んな生き物が居るんだ。魚にしろ獣にしろ・・・。
 
あっしもその話は聞きやした。なんでも川沿いの町人たちが筵旗押っ立てて、奉行所まで「ええ---ことじゃない---じゃないか!」て、腕ぇ振り上げて、練り歩いたらしいじゃぁないですか。
酎兵衛 その町人らの心意気や良しだ! だいたい、なんだね。幕閣はいったいナニをやっておる。奉行所のご沙汰は無駄な普請差し止めだ。さすが遠山の金さん! それなのに、ご沙汰に楯突いても、お上の御意は御意と無駄を言い張る。熊さんも八っあんもなにかと税を取られるだけじゃぁ、合点がいかないだろう。幕閣の勘違いも甚だしいじゃぁないか。幕閣は天下太平の眠りを貪っておる。まさにいま黒船来たりて亡国の時を迎えんとする火急の時に、貴奴らは木偶の坊となんら変わりがないではないかっ!(-"-)(-"-)(-"-)(-"-)(-"-)(-"-)(-"-)
あのぉ・・・ご隠居ぉ・・・さっきは、その“國守”ってことでご政道に楯突いちゃならねぇとおっしゃったが、そのぉ・・・川のことならご政道に楯突いてイイんですかい?
酎兵衛 ・・・・・・八っあん。まぁ、そんなに、カタイことをいっちゃあ〜イケナイ。所詮、酒の席だ。私は酒は飲んでも、“杜氏者”じゃぁない。
『大言酎兵衛のやかん』というお話でございました。
お後がよろしいようでm(_ _)m

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