2003.08.07 by 猛牛

■「どーして、玖珠に行くわけぇ?(-"-)」・・・と家人。

日田、三隈川の川っぺりに建ってる旅籠から、屋形船が浮かぶ夜景を眺めた次の日でやんす。さぁ〜て、どこを回ろうかってんで、家人から聞かれやしてね。んで、ちょいと玖珠まで行ってみねぇか?って提案したんで。

ところが家人、「どーして、玖珠に行くわけぇ? 何があるの?(-"-)」とイヤんなんて顔しましてねぇ。そこであっしも「いやぁ〜、切株山なんて、面白れぇ形の山があんだ。な!童話の里でもある。久留島先生なんて偉ぇ方が童話を作ってらしたんだ。イイところだぜぇ!」なんて言ってみたものの・・・。

ま、家人も不承不承ってところで、行くことになりやした。「大八で10分もあれば着く」なんてなだめすかしたんっすが。フツーの道を走ったもんで、20分くらい掛かっちまった。それで、また家人が(-"-)だぁ。あっしも、懲りない性格でやんして(^_^;)

■美しい田園が広がる、「亀の井酒造」のLandscape。

実は玖珠町は小田というところに、「亀の井酒造」さんという蔵元さんがいらっしゃいまして、あっしはそちらにお邪魔したかったんで。正調粕取『亀』のお蔵さんでやんすよ。いまは日向國に移り住んじまったgoidaのじの話だと、もう造りはやってねぇ、蔵に残った分キリだってんで。こりゃ、とにかくイカネバの娘。

玖珠町ん入って、しばらく。途中、二十四時間営業よろず屋で道を聞いた。橋ぃ渡って「小田入口」って辻を右に入ればいいと云ふ。

辻ぃ曲がって行くと、西豊後の田園風景が広がっておりやす。イイところだなや。田圃の向こうに変わった形した山があるでがしょう? 山がスパッと辻斬りに遭ったみてぇに平たくなってる。これが有名な切株山でさあ。
この切株山の奧にちょいと見えてんのが、万年山(はねやま)ってぇ、これも面白ぇ形。この近辺の里にとっちゃあ目印、ま、“らんどまーく”って奴でやんす。

田圃の緑が広がって、景色もこりゃ絶景なんだけども、暑い。暑すぎる。あっしゃぁ、喉渇いて、腰ぃからげた合成樹脂瓶の水をガブガブ飲んでおりやした。

いよいよ、蔵が見えてきやしたよ。ね。上に掲げさせてもらった一葉。ちょうど真ん中ぇ家が数軒ある、そこに蔵がありましてね。も、回りは稲穂ばっかりでして、良い意味で田舎にある蔵元さんでやんす。

蔵の前ぇまでやって参ぇりやした。ちょうど隣が八坂神社。なんだか祭りがあったようで、幟がたくさん立っておりやす。里の鎮守様ってぇんですかい? ぬぅあんだかほのぼのとした心持ちになりやすよねぇ。

お馴染みの「酒林」がぶら下がっております門を入ぇりやす。するってぇと、敷地の右脇に、切株山から湧いたんだか、チョロチョロと清水が流れておりやした。「まぁ、キレイ!」って、家人がすぐ覗き込んでる。

ちっちゃい沢蟹なんかが何匹か歩いておりやした。ところがその蟹、横じゃなくて、縦に歩いてる。どうしたんだ?って聞きますと、蟹曰く「へぇ、酔ってますぅσ(*^^*)」。さすがに蔵元さんちの蟹だ!って感心しやしたよ。

■先代ご主人に伺う、正調粕取『亀』の現在の状況。

さすがにお邪魔したのが、日曜だ。誰もいらっしゃらねぇかと思ったが、「ごめんくだせぇ」と声を掛けてみやした。是が非でも『亀』を買って帰ぇらねぇと、あっしの男が立たねぇんだっ。

するってぇと、事務所からご主人とおぼしき旦那が顔を出されやした。さっそく「お控ぇなすって。手前ぇ生国と発しますところ、筑前です・・・」と仁義。お休みのところ申し訳ねぇが、『亀』を分けていただきたいとお願いしたんでやんす。

そのご主人、「もう数も少なくなりましたけど、まだ残っていますから、持って参りましょう」と云って、事務所の奧ぇ入っていかれた。

その間、事務所ん中の棚ぁ眺めておりやすと、焼酎も色んな銘柄が並んでる。ん?「亀」?あ、これ。goidaのじの便りにあったお江戸向けの『亀』だぁ。麦焼酎でやんす。その他にも、麦や米の焼酎がいろいろ。
一番下ん棚に並んでんのが、『童話の里』ってぇ麦焼酎。たぶん、亀の井さんの主力商品ってぽじしょんでやんしょうか。

玖珠町といやぁ、童話作家・久留島武彦先生がお生まれになったところ。「久留島武彦文化賞」が制定されたってぇくれぇのお方。

郷土の偉人を顕彰しようってぇ、気持ちがこもってるんでやんしょう。のどかな里の、のどかな焼酎ってぇ感じ。

さて、旦那が戻ってらっしゃった、『亀』ぇ片手ぇぶら下げて。

お時間割いて申しわけねぇがと、ちょいと話を伺って参ぇりやした。

まず、旦那は先代社長で、今はってぇと息子さんに暖簾を譲ったとのこと。

それでかどうか、ぬぅあんとも柔和な、やさしい眼差しをされていたんでやんす。

猛牛「『亀』はもう残り少ねぇと聞いておりやすが?」
先代「はい。もう10年前に仕込んだ分だけですね、残っているのは」
猛牛「正調粕取についちゃぁ、あんまり地元でも飲まれなくなったってぇのは、その10年前くれぇからでやんすか?」
先代「いえ。もう少し以前からですよ。ちょうどイオン交換の麦焼酎が人気になり始めてからですか」
猛牛「筑前や肥前でも、他の蔵元の親分衆から、おんなし話を伺っておりやす」

猛牛「今は、どういう客人が買って行きなさるんでやんすか?」
先代「地元のお年寄りの方です。昔から馴染んだ味がいいとおっしゃられるんですよ」

豊後の正調粕取事情も、よそと同様でやんすね。あっしゃぁ、ちょいと哀しくなりやしたよ。確かに人も酒も、移り変わるご時世に飲まれるもんかも知れねぇ。しかし・・・。

猛牛「『亀』ってぇ名前でやんすが。どこから?」
先代「元もと、ここも天領だったんです。切株山の向こうに万年山があるでしょう? その麓だから、昔は“万年村”とこの辺りは呼ばれていたんですね。それで・・・」
猛牛「“鶴は千年、亀は万年”と?」
先代「そうです。亀は万年で、『亀』という名前になったそうです」

亀の井酒造さんの創業と云やぁ、江戸時代は享保年間のことだそうで。蔵ん名前そのものが、“亀は万年”の古諺から頂戴したそうでやんす。

大分県の正調粕取焼酎『亀』。
蔵在庫も少量になってきた。
色は白濁。正調粕取らしい。
猛牛「地元以外じゃぁ、『亀』はどちら辺りで、飲まれてるんでやんすか?」
先代「福岡県の飯塚ですか。そちらのある店にPBとして別の名前で出荷してますね。でも、もう蔵の在庫分が無くなったら、それで最後ですが」

猛牛「『亀』についちゃぁ、また仕込みをなさるってぇ、お腹づもりは?」
先代「いやぁ・・・(^_^;)。考えておりませんねぇ」
猛牛「なるほど・・・」

先代社長は、苦笑いを浮かべられておられやした。あっしも、したり顔してエラソなことは言えねぇ。蔵元さんにもそれぞれのご事情ってのがお有りなのは、少しは承知しておりやす。とは云っても、

「もしもし『亀』よ、『亀』さんよ」

あっしの勝手な思い入れでござんすがねぇ。

浮世は昔以上に激しい競争!競争!の渦ん中だぁ。ちょっとでも時流に乗り遅れねぇよう、皆歯ぁ食いしばってる。でもねぇ、そんなご時世だからこそ、みんながみんな、ウサギみてぇに飛び跳ねてるばかりじゃぁ、面白くねぇ。

たとえ歩みは鈍くても、『亀』にはまだまだ道を進んでもらいてぇと心底願っておりやす。

「おとっつあん。あっしの瞼の裏にゃ、『亀』の、『亀』の姿がしっかりと・・・」


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