2001.02.15 by 猛牛

かつて「グラスの底に顔があっても、いいじゃないかっ!」と、酒器における表現、その新たな可能性を喝破したのは、かの岡本太郎画伯であった。

花鳥風月、四季折々の風景や動植物を酒器に配して酒と共に愛でる、という日本ならではの伝統とマンネリズム。しかし岡本画伯は、シュルレアリスティックに、しかも豪快でいて軽く、これまで酒器を縛り付けていた重き鎖を断ち切ったのである。

それから幾年月。酒器に偶像を配すという画期的方法論は、岡本画伯亡き後廃れたかに見えた。しかし平成12年(2000年)11月3日、南国鹿児島で新たな息吹を持って再生を見るに至ったのだ。

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その作品とは、11月1日『本格焼酎の日』を記念したイベント『本格焼酎の日inおはら祭 IZUROドーム』で出品され、鮮烈なデビューを飾ったこのお猪口である。お湯割り試飲用記念品として限定800個のみが参加者に贈呈されたもので、極めて希少性の高い逸品と言えよう。

さて、お猪口の底にあるこの顔。これは『本格焼酎の日』のキャラクターである。

それは鋭角的な岡本画伯の作風とは若干違い、同じシュルレアリスムでもホアン・ミロなどが特徴とする、よりプリミティブで曲線的なスタイルが顕著だ。顔の輪郭、および眼窩、口唇を現した勢いのある筆致は極めて計算されているが、描線が醸すイメージには児童画の影響も垣間見える。

またこのキャラクター、一見「入浴中における腹中の瓦斯放出による泡沫の発生」という生理的現象の物理的現象化を想起させるところも、無意識下における偶然性の追求というシュルレアリスムとの強固な親近性が伺えるのである。

というわけで、このお猪口の窯元は黒ジョカで有名な「錦江陶芸」さんであるが、日本陶芸の伝統的形態・焼成を踏襲しながらも、ヨーロッパ現代美術の精神が見事に融合したこの作品。焼酎酒器における新たな「顔」の時代を創造したと言っても過言ではあるまい。

本格焼酎そのものが“爆発”を迎えようとしている今、この「顔のあるお猪口」はまさに全国的にidentifyされてきた本格焼酎のメルクマールをその相貌の中に形成したのである。


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