佐賀酒情報館
2003年11月8日。佐嘉神社境内、樟の巨木の下から望む、佐賀市内の夕暮れ。
2003.11.10 by 牛猛尊

■酒の國・佐賀県に、新しい清酒+焼酎情報発信地が・・・。
佐嘉の郡、郷六所 里一十九、驛一所、寺一所。
昔者
(むかし)、樟の樹一株此の村に生ひたりき。幹枝秀高く、莖葉繁茂り、朝日の影には、杵嶋の郡の蒲川山を蔽ひ、暮日の影には、養父の郡の草横山を蔽へりき。日本武尊、巡幸しし時、樟の茂り榮えたるを御覽はして、勅りたまひしく、此の國は(さか)の國と謂ふべし、とのりたまひき。因りて榮(さか)の郡といひき。後改めて佐嘉の郡と號く(『肥前國風土記』)

現在の佐賀県佐賀市の地名の由来を伝える、『肥前國風土記』の一節である。

JR佐賀駅から南へ徒歩15分ほどの距離にある「佐嘉神社」を訪れる。風土記の記述でも印象的な「樟(くすのき)」が、この神社の神域内に“幹枝秀高く、莖葉繁茂”っていた。樹齢六百数十年の巨木である。

当社の由来を記した立て札によれば、勧請されたのは江戸期と比較的新しいようで、樟そのものは風土記が編纂された当時のものではない。しかし、佐賀の語源を平成の御代においても実感させてくれる“榮”ぶりだ。

さて。(さか)の國の佐賀県はまた、酒(さけ)の國でもある。県の全人口約87万人に対して清酒蔵の数は実に34場。同県人でも「そんなに佐賀には蔵があっと?」と驚くという。そういう土地柄を反映してか、酒の需要についても、焼酎より清酒の方が優勢という九州内では珍しい県である。

この10月、その蔵元さんが集まっている佐賀県酒造組合が運営する、情報発信基地がオープンした。昼は『佐賀酒情報館』、夜はアンテナバー『nom.(のんどっと)』として営業され、佐賀の酒についてその全体像を一気に体感できるという。ちなみに「のんどっと」とは方言で「飲んでいるんだ」というような意味。

今年の春に正調粕取焼酎『ヤマフル』試験的再蒸留を行った、佐賀県唐津市の鳴滝酒造古舘正典専務より開店についての案内を頂戴したので、ちょっとお邪魔してみた。

■凝った店舗デザイン。完成度の高い『nom.』なのだ。

JR佐賀駅から通りを南に直進、500メートルくらい歩くと、右側にそのバーはあった。

組合運営のバーといえば、昨年大分県の組合が行った『コインBAR大分酒館』が先行事例としてある。佐賀の場合は、最低価格一杯100円で角打ち風に飲んでもらおうという大分のコンセプトと違う路線を取り、店舗の造作にも予算を相当かけたという。

実際に店内に入ってみると、その予算のかけ方がよく解る。大分の造作もよく出来ていたが、佐賀はさらにバーとしてのムードをしっかりと作り上げていた。本格的で完成度は高い。

カラーリング、間接照明の使い方、コーナーに置かれた小物、壁に掛けられたパネル類に至るまで、実に細やかに組み合わされている。

カウンターを見ると、瓶が並ぶ中央に、34場を紹介するビデオがビジョンで上映されていた。

■今も生きていた風土記! 二人の賢女(さかしめ)登場!(@_@;)

佐賀の地名の由来を伝える『肥前國風土記』には、もう一つエピソードがある。

佐嘉郡の西に佐嘉川という名前の川が流れていた。源流は郡の北にある山から出て、南の有明海に流れ込む。この川の上流に“荒ぶる神”がいて、行き来する人を半分は生かし、半分を殺めていた。

この神をなんとか鎮めようと、ご当地の豪族・大荒田が思案したら、先住民の首長に大山田女(おほやまだめ)・狹山田女(さやまだめ)という二人の巫女いて、下田の村の土で人形や馬形を造って荒ぶる神を祀れば必ず“應和む(なごむ)”と言う。大荒田がその言葉通りにやってみると、確かに荒ぶる神は鎮まった。

ここに大荒田云ひしく、此の婦(をみな)は是く實に賢女(さかしめ)なるぞ。故、賢女を以ちて國の名と爲むと欲ふ、とまをしき。因りて、賢女(さかしめ)の郡(こほり)といひき。今、佐嘉の郡と謂ふは訛れるなり。(『肥前國風土記』)

佐賀県酒造組合は、この風土記の記述を、店舗運営スタッフの決定について取り入れたのだろうか? それとも佐嘉の國に生まれ暮らす者としての“集団的無意識”の為せる業だったのか? 『nom.』に、ぬぅ、ぬぅ、ぬぅあんと、お二人の賢女が御降臨遊ばされていたのだっ!!!(@_@;)

このお二人だが、お名前は左の大山田女嬢が吉田栄美さん、右の狹山田女嬢が西井リサさんである。いやぁ〜、いいねぇ、実に良か! 和装のしっとりぶりも相まって、ほんにカワイイんである。お二人についてはこちらに詳しい。

荒ぶる神・・・ならぬ、背振山を越えてやってきた鼻息荒き“猛る牛”も思わず“應和む”の一瞬だっ。あ〜〜〜、もっドッカーン!と、まつろっちゃふ、のよねぇ〜(*^^*)

若干○ポチャ系の大山田女嬢と、鋭角的な狹山田女嬢という、美的個性も際だっているところが、祭祀体制としてこれまたホスピタリティ満点! もうこの巫女様お二人の御託宣を承りに行くだけでも、このバーに参拝する価値はあると、わては断言する。

あえて、強いて、断腸の思い、耐え難きを耐え、個人的な美の価値尺度から申せば、わては狹山田女嬢の方に、ちょっぴり“まつろっちゃふ”かにゃ〜、うん。笑顔を絶やさぬ方ではあるが、このショットにみる「ツーン」「プン」とした御尊顔がまたタマラン!、という感じ。ぜひぜひ、魂鎮めをば希い奉り申し上げたいもんじゃのぉ〜(~Q~;)

■というわけで、肝心の酒、ぬぅあのだっ・・・。

前置きが極めてウハウハと長すぎた。次は、肝心の佐賀の酒である。

ここで『nom.』の概要を紹介しよう。

●品揃えは、一場あたり2銘柄までとなっており、全34場から清酒が58銘柄、焼酎が12銘柄の計70銘柄が並ぶ。

●清酒は大吟醸や吟醸、純米、上撰が主体。わてが好きなにごり酒を出品している蔵もある。焼酎はもろみ取りの米・麦がメインで、他には吟醸粕もろみ取りが2銘柄と、もろみ低温発酵の黒麹仕込みの芋焼酎が1銘柄だけ登場していた。

●一杯の容量は吟醸で60ml、純米クラスだと90ml。価格は高くても400円が上限、最低ラインは200円で、極めて値頃感のある設定と言える。

●バーのシステムは、セルフサービスが基本。メニューに銘柄の紹介と番号が記されており、レジでその番号を言って代金を払い品物をいただくという「前払い方式」である。また飲んだ後の什器は自分でカウンターまで持参する。

●チェイサーは、各蔵元の持ち回りで「仕込み水」が供される。

といったところか。佐賀全蔵の酒を手頃な値段で、しかもカウンターやテーブルに陣取り、巫女様御両人の美しい祭祀のあり様を拝しながらゆったりと飲めるところが、この店のいいところだ。

■今回、飲んだ内訳は?

今回、酒の國にして清酒蔵がさきわふ所、佐賀県の組合運営店にお邪魔するということで、清酒しか飲まないと決めていた。郷に入れば郷に従え、だ。

さらに、カウンターでわての隣りに陣取っていた二人の紳士が交わす、こんな会話が耳に飛び込んできた。清酒を飲む相手に、焼酎を飲んでいたもう一方が、「清酒を飲むと? わしゃ清酒飲むと、翌日頭が痛とうてなぁ」。わても体質的に清酒は受け付けないカラダなのだが、じゃがばってん、久しぶりに自分で実験しようという気になった。

しかし、わては清酒はまったくの門外漢。ゆえに当夜は、焼酎のみならず清酒にも造詣の深い石原けんじ大佐に連絡を入れ、大佐の御託宣をいただき“魂振る”こととした。

以下が、わてが飲んだ銘柄と、その量、価格である。

銘柄
蔵元
容量(ml)
価格(円)
聚楽太閤 大吟醸 鳴滝酒造
60×2=120
400×2=800
聚楽太閤 純米 鳴滝酒造
60
200
特別純米酒 万齢 小松酒造
60
200
本醸造 金紋東長 瀬頭酒造
90
200
東一 純米吟醸 五町田酒造
60
300
能古見 純米吟醸 馬場酒造場
60
300
金波 純米酒 光武酒造場
60
200
鍋島 にごり本醸造 富久千代酒造
60
200
天山 純米吟醸 天山酒造
60
200
計10杯
630
2600
わてにとっては、これくらいマジに正面から向き合って清酒を飲むのは20年振りくらいか。ずっと焼酎かビールだったからなぁ。

「あのぉ・・・佐賀の酒はとっても・・・評価が・・・高いんです・・・YO」という石原けんじ大佐の言葉通り、飲んでみて本当に美味いと思った。アテにしたのは、佐賀名物・川副町の「ガニ漬」・・・言うことなし! さて、これを書く今朝の気分は快調である。

■古舘専務に聞く、バーの主旨、および『ヤマフル』の今後。

ところで、開店早々の17時30分、お客が居ない頃合いに古舘専務に今回の取組について、お話を伺った。(以下敬称略)

猛牛「まずは『聚楽太閤 大吟醸』が福岡国税局酒類鑑評会で第一位大賞を受賞されたそうで、おめでとうございます」
古舘「ありがとうございます」

猛牛「で、今回のバーの開設ですばってん、計画はいつぐらいから始まったとですか?」
古舘「実際には今年に入ってすぐくらい、というのは毎年大きなイベントを酒造組合でやってまして。昔はその例えば、一升瓶とかにつり下げをして、抽選で当たった方は海外旅行にご招待するとかあったんですけど」
猛牛「はい」

古舘「ここ数年は『佐賀の酒を楽しむ女性の夕べ』っていって、県内で500人くらい、女性だけですけど、一応会費はいただくんですけど、それ以上の料理を食べていただいて、お酒も飲んでいただくことを、『日本酒の日』に年に1回やっていたんですよ。」
猛牛「なるほど」
古舘「その会のコンセプトとしては、日本酒と洋食は合いますよ、ということだったんです。でも、料理目当てに来られるんですね。次に行こうとすると『私、日本酒はダメなんです』という方がいらしたりで。それが果たして拡売になってるか?という点で非常に怪しい部分があったんで、今年の初めくらいから若手を中心に動いて、今年こそ違うことをやろうと思ったわけです」
猛牛「はい」

巫女様二嬢とカウンターで業務に励む、本日の当番祭主である鳴滝酒造・古舘正典専務
古舘「それで、昨年あたりから大分のワンコイン・バーとかを見学に行ってたんで、この佐賀県のお酒を全種類揃えて飲めるお店を作ろうよ、というところから始まったんです」
猛牛「なるほどですね」
古舘「実際には4月あたりからかなり忙しく、たびたび集まってはみんなで“あーでもない、こーでもない”と準備を進めてました」

猛牛「店内の造作ですけども、けっこう力が入ってると思ったとですが」
古舘「実際、どこにお金をかけるべきか?というのはよく考えたんですけども、まぁ、ご存知のように、県の空き店舗事業の一環で(注:この店は「唐人町商店街振興組合主催店」でもある)補助金を受け取れる事業なんですね。それで店舗の改装については比較的、まぁお金が出たというか、使える範囲が広かったんですよ」
猛牛「ほぉ」
古舘「もちろん、その、儲かることはなかなか無いだろうなとは思ってましたけども、なんせお店のコンセプトで、“お洒落に”ではないですけども、“落ちついて色んな日本酒を味わっていただこう”というのが、ひとつ大きなコンセプトだったんで、やっぱり安普請にするよりは、ちょっとお金を掛けてやっていこうよ、ということにしました」
猛牛「よく解ります」
古舘「それでも結構ご協力いただいて、安く造作していただいたんではありますけどね」
猛牛「でも、ほんといい雰囲気ですばい」

古舘「“さじょうかい”というか、佐賀県の蔵元の若手の会で『佐醸会』というんですけども、これが中心になってやったんですけど。お酒についてはもちろん詳しいんですが、やっぱりこういう事はやったことがないんですよね。で、内装からシステムから色んなところで、素人なりの考えから始めて、色んなところのアドバイスを受けながら、まあ成ったのがこのカタチですね」

猛牛「ところで価格設定ですが、大分の場合でしたら最低で100円、高くても300円くらいだったと思います。こちらでも大吟醸が400円とは安いですね」
古舘「ひとつはその、日本酒というのはとても高い値段で出されてますよね。3倍近くですか。それに一合頼んでも七勺徳利で出てきたりとか、そういう部分の不信感というのがあるみたいなんですよね。ひとつとしては商売のやり方で、日本酒はこういう価格で提供されても成り立つんですよ、ということを提案するという意味で、この値段設定にしています」
猛牛「うむ。なるほど」
古舘「こういう価格設定だと『飲んでみようか』というお客様がさらに増えると思うんですよね。そういう意味で、こういう商売のやり方もあるのでは?という提案も含めたお店なんです」

猛牛「地元の方でも、こうやって県下の酒が一度に飲めるということは無かでしょうし、いい店だと思いますばいねぇ」
古舘「お客様がこの店に来られて、最初に言われるのが、『佐賀に34も蔵があるんだ?!』と驚かれるんです」

さて、平日は17時30分の開店から来店者がやってくるという同店、土曜は20時くらいからが繁忙ということだが、なぜかわてがお邪魔した日は、18時くらいには満席になった。

猛牛「オープンからの来店者数ちゅーのは、いかがですか?」
古舘「おかげさまで、想像していたよりは、はるかに多いんですよ。現時点での総来店者数は、私自身が把握してないんですけど、一日平均で40人以上はお越しいただいていると思いますね。10月1日のオープンから1000人は軽く越えていると思います」
猛牛「なるほど。だいたい1日あたり何名の来客があれば良かとですか?」
古舘「そうですね。一日あたり20名いらっしゃればと思っていたんですが、予想以上の反響でした。ありがたいですね」

猛牛「お客様の年齢層は、いかがですか?」
古舘「いろいろと多岐に渡ってますね。シニアな方で週に二三回いらして、二三杯飲んで帰られる方もいれば、若い方でグループでいらっしゃる方々もあります。色んな飲み方をされてます。この間面白かったのは、若い女性が3人ほどいらして『日本酒、初めてなんですよ』と言われて」
猛牛「ほほぉ〜」
古舘「どうやって飲んだらいいか解らないと言われてですね。それで、辛口と甘口に特徴的なものを3つお出しして、自分の好みに合うものを探して下さいという風にアドバイスできたりとか・・・そういった意味でも、今回のオープンは有意義だったと思いますね」

◇   ◇   ◇

店内もお客が急増、古舘さんもそろそろ巫女様とともにお店の業務に戻らねばならなくなってしまった。というわけで最後に一問、話を転じてアノ件について伺ってみた。

猛牛「来年の『ヤマフル』の蒸留ですばってん、来年はいよいよ17年振りの“正式な蒸留”、“正式な復活”ちゅーことでよろしいとでしょうか・・・・?」
古舘「はい。正式な蒸留再開ということで、やります! あれ以来、地元でも『ヤマフル』の引き合いが増えてきました。たとえ佐賀全体ではなくても、“唐津の地焼酎”という限定されたポジションとしてではあっても正式に蒸留を再開し、ひとりでも多くの方に正調粕取焼酎に親しんでいただき、伝統文化として残していきたいと思っています」

◇   ◇   ◇

清酒と、その普通酒粕から造られる正調粕取焼酎との関係は、切っても切れない。焼酎ファンであるわてだが、佐賀県の清酒と粕取焼酎の、今後のますますの“榮”を祈らずにはいられない。

佐賀は酒の國、蔵三十四所。
平成の御代、牛猛、のんどっとを巡り飲み、賢女の咲き榮えたる様を見回して、いひき、此の國は美酒と美女の榮
(さか)の國と謂ふべし。大山田女嬢・狹山田女嬢に相見え、三度四度と應和みたくあらむ。ん〜ん、またどっとのむ、どぉ。(『平成・肥前國酒風土記』)


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