【長月・九】
Making of Black MANNEN 5

2003.10.02 by 猛牛


9月19日、いよいよ今年初めての蒸留を迎えました。

ボイラーから沸き上がった蒸気を、蒸留機の中に送り込んで二次もろみを煮るのです。鹿児島では古くは蒸留したての焼酎を“煮立て”と呼んでいました。

ふつう蒸気と言えば、そんなに変わりは無いと思いますよね? でも面白いことに、蔵元それぞれにもろみを煮る蒸気へのこだわりがあります。

渡邊酒造場では全国的にも珍しいタイプのボイラーを長く使っています。それは、業界専門紙がわざわざ取材に訪れたほどの、まさに希少機種なのです。このボイラーから、どういう蒸気が発生するのでしょうか?

渡邊専務「これがコルニッシュ型と言われるボイラーなんですけど。もう日本に12基しか残っていません。そのうち3基が焼酎蔵にあります。鹿児島に1基と、宮崎に2基です。鹿児島ではどの蔵にあるのか存じていませんが、宮崎のもう1基は日南の京屋酒造さんにありますね。コルニッシュボイラーは扱いが微妙で、管理は大変なんですが。でも、柔らかく質の良い蒸気が出るので、とっても重宝してます」
「柔らかい蒸気」だと、どう違うのでしょうか? 80歳になられた今も自ら蒸留の現場に立つ、二代目の渡邊一男さんに伺ってみました。

渡邊一男さん「柔らかい蒸気だと、蒸留の際、焼酎が“まるく”なるんですよ。また、原料の米や麦、芋を蒸すときに、芯までしっかりと蒸す事ができるんですな。しかも表面はべたつかず、製麹の際に扱いやすい蒸し上がりになるんです」

蒸気ひとつ取っても、微妙なものなんですね。

このボイラーが設置されたのは、1970年。それ以来33年間、渡邊酒造所の焼酎造りを支え続けています。

渡邊専務「設置された日は、その年の9月28日です。もうすぐ33年目なんですよ。しかし、うちは中古で買っているので、製造日自体はもっと以前なんですけど」

一男さんが登っているのは、蒸留機です。今日も調整に余念がありません。

蒸留機は、ボイラーからの蒸気を受け止め、もろみを煮る機械です。蒸留機も蔵元それぞれに独自の手が加えられて、個性のある焼酎が生み出されます。

蒸留機から、アルコール分を含んだ蒸気が流れる「わたり」の部分です。ふつうはひとつだけなんですが、こちらでは3つもありますね。面白い形をしています。これはなぜなんでしょうか?

渡邊専務「う〜〜ん。表現がちょっと難しいですが。つまり、なんていうか、上に切り替えるほど出てくる焼酎がきれいになるというかっすねぇ。要するに末垂れ臭をカットするための工夫なんですよ。

末垂れにはもちろん甘み、旨味といった好い部分も含まれているんですが、それをそのまま入れてしまうと末垂れ臭という嫌な臭いがついてしまうんです。それを上のわたりに切り替えることによって、嫌な臭いだけを下に落として、好い部分だけを焼酎に入れようという仕組みにしてるんですね」

渡邊専務「蒸留機のわたりはレバーを倒したり、起こしたりして開閉して切り替えます。時間で切り替えるのではなく、出てくる焼酎のアルコール度数を見て切り替えるんですよ。日によって切り替える時間はさまざまですね」
さて、今年初めての蒸留が始まりました。蒸留機の周辺は当然ながら熱く、撮影もたいへんです。熱いところを無理して撮影していただきました。

渡邊専務「熱気でレンズは曇っちゃうし、とにかく、熱いんっすよ!(~Q~;)」

渡邊専務「蒸留機の中でもろみを煮ているところです。画像では躍動している様子や香りがうまく伝わらないのが残念ですね。蒸留機は稼動していても、していなくても見た目は変わりません、当然ですけど。所々蒸気が出ているのですが画像だとわかんないでしょうね」
これが垂れてきた焼酎です。これは「中垂れ」の状態。蒸留したてなので荒々しい感じですね。しかし、甘い香りが周囲に広がります。

渡邊専務「出てきた焼酎は検定タンクに一度入れて、容量やアルコール度数を測り、貯蔵タンクに移しかえます」

貯蔵タンクに移された『黒麹萬年』の原酒を、三代目の友美さんが味見をします。まだ蒸留されたばかり、ちょっと白く濁っていますね。さあ、今年の出来はいかがでしょうか?

渡邊友美さん「今年は、ご存じの通り日照不足で、芋の出来がたいへん心配だったんですが。小ぶりながらもデンプン価の高い良い芋が採れたお陰で、今のところ味も歩留まりも申し分ない、満足のいく焼酎ができています」

懸念された芋の生育状態もなんとか持ちこたえて臨んだ、今年の仕込み。初蒸留分をじっくりと舌で確かめる友美さんの力強い言葉に、確かな手応えを感じました。

蒸留された焼酎はこれから貯蔵タンクでしばし眠りにつき、出荷の時を待ちます。


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