田野町大根の葉
【霜月・弐】
Going Up The Country

2003.11.18 by 猛牛


(BGM:John Lee Fooker 「Boogie Chilen」)

10月下旬から蔵で研修に励んでいた渡邊専務の後輩、江上裕士君と小倉健太郎君が日程を終えて東京に戻った11月の初め。それは、田野町の大根栽培農家が、いよいよ慌ただしい時期に突入する頃でもあります。

そう、田野町特産である漬物用の大根がすくすくと生育し、収穫の時期がだんだんと迫ってきたからです。

渡邊専務「ここは、こないだの大根畑っす。植えられた大根が、だいぶ大きくなったっしょ?」

見比べてみると、大根葉の茂り具合がよくわかりますね。

大根の生育状況を見計らって、農家が準備を始めたのは、田野町、冬の風物詩『大根やぐら』の組み立てです。

渡邊専務「ちょうど今ぐらいの時期から、農家の方は家族総出で大根を干すための棚(やぐら)を建てるんっすよ。素材ですか? 竹ですね」

渡邊専務「これが準備中の風景なんですけど、前年に使用した竹を、組み立てるために出したところっす。竹は何年間か同じものを使用します。使わない時は、畑の脇に積み重ねて上からシートを掛けて、来年のために取って置くんです。田野町のほとんどの畑にあると思いますよ。もしお近くを通った際には、探してみてくださいね」

さて、これらの竹を、いったいどのように組んでいくんでしょうか?

なるほど。こういう風に組んでいくんですね。それにしても大きなやぐらです。高さは6メートルにもなるとのこと。

渡邊専務「ここはさっきとは別の畑なんですが、田野町のいろんな所で組み立て風景が見れるっすよ」

漬物用の干し大根の生産量が日本一という、田野町ならではの光景です。ちなみに田野町は、葉たばこも同じく日本一。宮崎県内でみても、生産農業所得では県下第1位を誇る、まさに農業の町、なのです。

というわけで、干し大根ですが、田野町のホームページによると、収穫した大根を、やぐらに葉を付けたまま掛け、1週間から10日間ほど、寒風と天日にさらします。そうして「ほどよい甘さと歯ごたえのあるおいしい『干し大根』」へと生まれ変わるといいます。

やぐらに干した姿をはやく見てみたいものですね。

干し大根生産で日本一の座を田野町にもたらした、その秘密は、鰐塚山から吹きおろす寒風でした。

渡邊専務「ここは、さらに別の畑っす。

当たり前と言えば当たり前ですけど。やぐらは冬場、風がよく吹いてくる方角に向けて建ててあります。そのため、どの畑を見てもやぐらは鰐塚山に正面を向けているんです。田野では冬場、山から吹きおろす冷たい風のことを『鰐塚颪(おろし)と呼んでいます」

鰐塚山を遠く向こうに望む、のどかな大根やぐらの風景です。

しかし、この町にも時代の波は押し寄せています。現代の食生活や嗜好の変化を反映して、この町の農業のあり方が変わろうとしているのです。

消費者のニーズに合わせるために、歯ごたえある漬物用の干し大根から生漬大根への生産転換。減少した農地を有効に使うために進められている、大根や葉たばこから施設園芸への作物転換。消費の多様化と直売所での店頭化に重きを置いた、多品種少量生産への転換など。

大きな変化が、いま、田野町の風景に重なっています。

渡邊専務「母のいとこ、なんすけど。田野町の干し大根で“べったら漬け”、作ってるんっすよ。これが歯ごたえが良くて、美味いんっすよ!」

食の洋風化が極限となれば、米食のみなず、伝統的な漬物の消費がさらに減少することは免れません。田野町の風物詩である「大根やぐら」も、いつかは想い出の中だけにその偉容を見せることになる、そんな日が来ないとは誰にも断言できません。


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