2005.10.17 by 牛井紫煙軒

まいど、カバカバしいお嗤ひでございますぅが。

近頃、ことさらに、肩身が狭いもんでござます。なにがってもうしますってぇと、いわゆる、煙草でございまして。

つまりぃ、ぬぅあんともうしますか、非喫煙主義的健康志向人士らによる廃煙権運動の全国的拡大が、その、われら喫煙権者たちのれーぞんでーとるをば、極度に狭めさせておる、わけでございますなっ。いふなれば、Purple Haze絶滅への道を、ひたすら、その、歩まざるを得ぬ状況と、相成っておるわけで、ございます。愛煙家諸兄にとっては、ぬぅあんとも、慚愧に耐えぬところでございましょふ。

えーー。江戸の頃にも、おんなしよーなことがあったそーでございまして。かの平賀煙内先生が、『風流紫煙権伝』という書物の中で、こんな風に書いていらっしゃるとか。

一筋の紫煙たなびくを認むるに、そそくさと駆けつけ、健康第一養生訓を切々と説き排煙主義を自負する者、ひとたび街に出れば往来を占拠す内燃式自走車両の排煙すもっぐ充満するに心することなく闊歩し、はたまた我が家に帰りみれば壁天上にあすべすと在るやもしれぬに高枕高鼾を為す。

まっこと煙草のみ満天下に轟く悪役、汚名着せられ、吉良上野介の如き扱いとは、珍妙奇天烈なる排煙イロハかな不忠臣蔵の一幕と嘆ぜざるを得ず・・・“とが、ほかにありても、すえず”“おのぉおのぉがたっ、キンエンでござりまするぞぉ”。

なんですな。ちょいとマクラが長くなっちまいましたが。今日のお話は禁煙ではございませんで、燐寸。それも、焼酎の販促用燐寸でございまして・・・。

焼酎、酒と来ましたら、煙草は、その、切っても切れねぇもんだと、わたくしなんぞ思っちまう者でございますが。世の中、禁煙の飲み屋もあるそーで、まったく面食らっちまふ。「煙草が吸えねぇ飲み屋っ? 冗談じゃねぇやな。腰据えてゆっくり飲めやしねえ!」と怒りだしたくもなりますな。

南蛮船渡来このかた、“酒と泪と煙草とオンナ”は切っても切り離せねぇもんでして。美酒に美食、美女と来まして、最後は美女にフラれまして、煙が目に滲みる、Smoke gets in my eyes ってんで、泪となるのが酒場の常。それを忘れちゃあイケマセン、イタダケマセン、というものでございます。

そんな酒場に欠かせないものが、蔵元の販促用燐寸でありまして。百圓発火からくりなんぞが巷に広がった上に、さらに輪をかけて非喫煙浪漫主義が蔓延しまして、その姿も、とんと見かけることが少なくなっちまいました。

本日取りいだしましたる品は、日向の“風流食道軒”とも称されます、かの石原けんじ大佐先生が、玄界灘に浮かびます麦焼酎発祥の島・壱岐に冒険されまして手に入れた希少なもの。二日酔いに悩まされながらも、荒波逆巻く玄界灘を艱難辛苦の末乗り越えられまして、無事筑前に伝来した逸品でございまして・・・・。

:八っあん、ぬぅあんだね。この箱に刷ってる娘さんだが、これはどちらのお方様だっ?

:ああ、このお方は、かの壱岐焼酎協業組合の看板娘だなっ。『壱岐っ娘』ってなめえと聞いた。それにしても、めずらしい髷だぜ。

:石原けんじ大佐先生曰く、江戸じゃあ珍しいかもしれねぇが、筑前じゃこのお方様を、大道の看板なんぞで結構目にできるらしい。とにかく、この燐寸、そーとー年代もんらしいぜ。

:じゃぁ、どうでえ? 弥富奧に出すってぇのは? 結構なお足が・・・?

:次は、『壱岐の華』さんだな。

:これも古いもんじゃねぇのか? 色が黄ばんでやがる。

:大佐先生の話でも、10年、いや20年は酒屋の奧に寝てたって、いやぁ〜、こりゃ、てぇへんだ!ってんで、長屋中が大騒ぎよ。

:合点。販促品じてえが遺るもんじゃあないが、燐寸は特になぁ。着火すりゃぁ、まんまお釈迦だからなぁ。

:それにしても、こんなシロモノがよく残っていたもんだぜ。

:しんがりは、『山乃守』さんのだ。

:こういうのは、古色蒼然って言うらしいな、ご隠居の話だとよ。

:古き良き酒場、てぇか、角打の風情が、こー甦ってくる。大佐先生の話だと、酒屋の大将が「全部持ってけえってくれ!」とあるったけ呉れたそうだぁ。

:いまのご時世、酒場でも燐寸なんて要らなくなっちまったからなぁ・・・。

:「燐寸おくれでねぇか?」と頼んだら、先客の置き忘れた“百圓”を渡されたりする。

:こりや裏側かい?

:ああ。『壱岐っ娘』はおんなしだが、『壱岐の華』と『山乃守』はちょいと趣向が違う。上んとこをよく見とくんな。BEST SAKE、BEST SHO-CHUと書いてある。時代を感じさせるじゃぁねえかあ。

:だなあ。箱に刷り込まれた意匠ってえのか、柄は日の本だが、蘭語が使ってるところがハイカラって二の線狙い。しみじみ、あの頃を思い出すってもんだ。

:こりゃ、焼酎大衆生活史を語る上で欠かせねぇ、貴重な資料だと思うぜっ。販促燐寸はおいらたちの大切な文化だっ! 滅ぼしてなるものかってんだ、なっ! 絶対に守らなきゃなんねぇ! お湯割り硝子杯に、粗品手拭い、前垂れ、幟に、こいつ・・・販促燐寸! 遺らないものにこそ、大衆生活文物の神髄が宿るってもんだ!!!! なあ八、なんだか、こう熱くなっちまったら、そのなんだっ、一杯ぇ引っかけて、その・・・煙草が吸いたくなっちまったなっ。

:いいねぇ。一服分けてはくれねえか?

:合点。これでいいか?

:?・・・まいるどせぶん、ぷらいむ、六粍ぐらむ?? けっこう軽めじゃねぇか?

:俺様も健康を気にする歳になっちまったってことよ。酒の度数がどんどん高くなっちまうが、煙草はどんどん度が下がる。不思議な嗜好品だぜ、ったく。低いのもまあ、気休めだがな。さっ、火ぃ着けるぜぇ。

(ジュボッ!)

:おい、熊っ・・・いま火、何で着けた?!

:ああ、ZIPPOよ! 紅毛渡来の油火付けさ。風が吹いても消えねぇから大助かりよっ!

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お後がよろしくないよーでm(_ _)m


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