2002.11.17 by 猛牛

■祇園精舎の鐘の音。販促コップ無常の響きあり・・・。

このコップ、諸行無常の響きの中で時代と命運を共にした作品。絶版ものは判明している限り、今回が初登場ではないかと思ふ。

旧安楽酒造さんの製作になる『ちご櫻』の販促コップである。同蔵元は、昭和62年に消滅、現鹿児島酒造さんへと銘柄そのものは引き継がれたという。しかし、ブランドの名称は残ったが、販促コップは商品ラベルなどと共に深い時の流れに没してしまったのである。

昭和62年(1987年)の製造としても、すでに15年は経過したまさに“ビンテージ・グラス”。それが今回、当コーナーに姿を顕わすことになったのは、わての仕事先の方が鹿児島出身で、その方の所持品の中にこのグラスがあったというご縁だった。

その方はわてより歳が少し上で、鹿児島在住当時よく『ちご櫻』のCMをテレビで見ていたそうだ。焼酎の大手蔵として、地元の人々に深い印象を与えていたという。しかし、理由は解らないが、いつのまにか記憶の向こうへと没して、幾久しいという。

そして、このコップも同じ運命を辿った・・・のだったが。

■沙羅双樹の花の色。カスレ必衰の理に見る販促コップの美。

実際に長年使われていたとのことで、刷り込まれた文字や意匠がカスレてしまっている。だから価値が無いのではなく、それがまさに“盛者必衰の理”をあらわして、大衆の日常と不即不離の関係にある販促コップならではの「美」を見いだしてしまうのら。

タイトル画像にある「焼酎」の文字、そして左に掲げた太陽の輪郭は、長年の使用によってであろう、相当の摩耗を見せている。

実際に光にかざしてみると、キズだらけの状態だ。じっくりと使い込まれた品であることが、よく解った。

それにしても、このコップの価値を高めているのが、この日輪+富士山+桜という「日本」を象徴するICONの3連発ぬぅあんである。

桜花に見る伝統的な表現、細い線ながらも富士山が雄々しく屹立する姿、そして大きなベタで力強く表現された日輪・・・。

販促コップARTの中でも最高峰と申し上げて過言ではない、一傑作!と断言しよう。

そして美しさに華を添えるのが、画龍点晴の如く、淵に残る一つの「欠け」消えゆくもまた大衆の理、欠けるもまた滅びの美。販促コップらしい天の配剤であると、わては想ふ。

■ただ春の夜の夢のごとく、まさに『幻の販促コップ』である!

さて、意匠と言えば、このコップそのものの形もなかなか他には見いだせないものである。特にコップの底部、高台の付近などは、これまで見かけたコップとは一線を画すデザイン性を誇っている。

機能性を重視した底部のグリップがまず面白い。滑りを少なくして握りの安定感を高めたデザインだ。持つとたしかにしっくりと指に馴染む。

そして注目すべきは高台のところ。テーブルなどにピタリとくっつかないようにするためか、大小の丸い突起が同心円状に並んでいる。きめ細やかな配慮が施された仕様で、他のコップではなかなか見られないものと言えますにゃ。

まさに名実ともに『幻の販促コップ』である。弥麩オクに出してみるか!(爆)

◇   ◇   ◇

ところで、まったく唐突だが。このコップの底を見た瞬間、とても呪術的な意匠が絵柄も含めて全体的に織り込まれているなぁという印象が、アルコール漬けの脳味噌に一気に広がったのだった。

この●が並んだ底は宿曜道(占星術)。日輪は諸々の信仰の中心にある太陽神、富士山は修験道の霊峰、桜はその語源を探ると、サガミ(田神)のサで穀物を、クラ(座)は神の憑りつく所を表しており、穀霊の憑りつく神座のことらしい。

何かある・・・とわては見たのだが。

それは単にわての考え過ぎでしかないのか? それとも蔵元はこのコップに何か想いを込めたか? 今となっては、その事どもも、すべて闇の中である。


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